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はむはむしたいのです!(ウェイン)
僕には自慢の恋人がいる。綺麗な銀色の狐で、背が高くて、とてもかっこいい!
ウェインは今日もウキウキで森の中にあるアシュレーの家を目指していた。人里から少し離れている、こぢんまりとした家を。
「アシュレー!」
バンッとドアを開けるとアシュレーは少し驚いたようにこちらを見て、次にフッと笑う。
この顔! この笑顔がカッコいい!!
「どうした、ウェイン?」
「今日はいい天気だから外行こう!」
温かいから狩りもいい。アシュレーは狩りが上手だ。魚釣りもいい。この間魚が沢山いる場所見つけたんだ。
アシュレーは持っていた竹のザルを置いて近づいて、ウェインの頭をクリクリと撫で回した。オレンジ色の髪と、大きな三角形の耳。全部に触れるように撫でられると悔しいけれど、ちょっと嬉しい。
「もぉ、子供扱いするな!」
「あぁ、悪い。今日も元気だな、ウェイン」
「うん! なぁ、魚獲りに行こうぜ!」
「あぁ、いいぞ」
やった! 今日は釣りだ!
アシュレーの家に置きっぱなしの釣り竿とバケツを持って、ウェインは元気に川へと向かった。
川は流れが穏やかで、魚が沢山いる。そこに針を垂らしているけれど、なかなか魚はかからない。
かたやアシュレーのバケツにはもう三匹の魚が入っている。
「もぉ、どうして僕は釣れないんだよぉ」
「お前が動くからだ。魚だってバカじゃないんだぞ」
「分かってる! 動いてないもん」
と、思っているんだけれど。
少し離れて釣り糸を垂らしているアシュレーを盗み見る。本当に落ち着いて、大人だ。こんな格好よくて、綺麗で大人な銀狐が、僕の事が好きだなんて未だに信じられない。
ほんの少し、劣等感もある。ウェインはアシュレーとあまり年が変わらない。なのにウェインは小さくて、子供っぽい。お○ん○んも小さいし、毛も生えそろっていない。腹筋とか柔らかいし。
オスなのに、出来損ないな気がする。側に完璧な見本みたいなアシュレーがいるから、余計に悔しい気分になる。
「ウェイン?」
「ふぁ!」
物思いに耽っていたから、近づかれたのに気付かなかった。アシュレーは後ろにいて、そっと抱き寄せていた。
「どうした? 何を考えていたんだ?」
「なっ、なんでもない!」
「嘘だな。耳が垂れていたし、尻尾がしょんぼりしていたぞ」
「違うって言ってんじゃん!」
悩みを見透かされたら恥ずかしい。それを誤魔化すみたいに振り払うように立ち上がった、その足元がツルンと滑った。
「うっ、わぁぁ!」
「ウェイン!」
ザバンッと大きな水音を立ててウェインは川に落ちた。とは言っても膝下の浅い、流れも緩やかな川だから平気……なんだけれど。
「アシュレー!」
「っ!」
ウェインを庇うみたいに下になったアシュレーが、痛そうな顔をする。見ると右足と右腕がざっくりと切れている。尖った石があったから、それで切ったのかもしれない。
「大変だ! ごめん! 僕……僕!」
「大丈夫だ、このくらい舐めておけば直る」
「ダメだよそんなの! 傷洗って……今日はもう帰ろう!」
川の水で血は流れていくのに、まだ止まらない。ウェインは着ていた上着を破いて、傷に当てて縛った。
二人分の荷物を持って帰る道は、行きのウキウキした気分が嘘みたいに萎れていた。
アシュレーの家に戻って、彼はすぐに傷の手当てを始めた。傷を丁寧に洗い流しているのを、ウェインはしょんぼりと見ている。
「そんなにしょげるな、ウェイン。派手に血は出たが、そんなに深くない」
「だって……」
「俺の魚もやるから」
「いらないもん!」
ただ、自分が情けないだけ。空回って、迷惑かけて……悲しいだけ。
ふわっと手が頭に触れる。見上げると、とても穏やかに笑うアシュレーがいた。
「ほら、血も止まった。少し押さえていれば大丈夫だ」
こんな、優しい顔をしないでよ。いつも迷惑かけてるのに、どうして嫌だって言わないんだよ。
「ウェイン? あっ、おい!」
飛び出して、抱きついて、顔を上げられない。その頭をアシュレーは、ずっと優しく撫でてくれる。
「僕、大人なのにかっこ悪い……ごめん、アシュレー」
「お前は十分かっこいいよ」
「どこが!」
「体は小さくても、正義感は人一倍だ。それにお前は、俺に会いにきてくれる。暗い森の中でも怖がらずに、俺の所にきてくれる」
「そんなの当たり前じゃん! 僕はアシュレーの事大好きなんだからな!」
好きな人に会いにいく道が、怖いわけがない。こんな優しい人が、怖いわけがない。多少見てくれが怖いとか、銀色だとか関係ない。
アシュレーは嬉しそうに笑って、ちょんと額にキスをしてくれる。たったそれだけが、嬉しかったりするんだ。
「怪我、どうしたら早く治る?」
「寝てれば平気だ」
「じゃあ、もう寝よう」
アシュレーを引っ張って、ウェインは寝室のドアを開けてベッドに入り込む。そして自分の隣をパフパフと叩いた。
溜息をつきながら嬉しそうに笑って、アシュレーが隣りに寝転がる。いつもは腕枕だけど、今日は我慢。そのかわり、怪我をした腕をペロペロと沢山舐めた。
「こら、ウェイン!」
「舐めたら直るんでしょ?」
「……そうかもしれないな」
「ふふんっ」
早く怪我が治ればいいな。
そんな願いを込めて腕の傷を舐めていると、ちょっとトロンと気持ちがフワフワしてくる。気持ちいいなって、思ってしまう。
「あーむぅ」
「ウェイン!」
「はむはむ……」
アシュレーの耳に手を伸ばして、先っぽの方をはむはむと甘噛みする。これがとっても気持ちよくてたまらない。まさに至福の時だ。
「……まったく、人の気も知らずに」
困り果てた溜息が一つ。それも、幸せいっぱいのウェインにはあまり聞こえていなかった。
=====
なぜ腕をこんなにも甘噛みされているのか?
気持ちよく眠っているウェインは、よほど幸せな夢を見ているのだろう。さっきから寝たままアシュレーの腕をはむはむと甘噛みしている。
ちゅっ、ちゅぱ、はむ……ふみゅぅ……
……拷問か。
可愛い恋人があまりに可愛い事をしているのに、ここで手を出すのは流石に人間としてどうなんだと悩みまくる、鬼畜になれないアシュレーであった。
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