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Side Keishi いつか、って思ってたけど、まだ早い――結婚式については、焦るつもりはなかった。 質素でも簡素でも、自分たちの力だけでやれなきゃ意味が無い――くだんない見栄かもしれないけど、そう思ってたから。 千帆のお父さんから連絡が来たのは、卒業式が終わって、3年が学校からいなくなって、学年末試験も終わって、先生も生徒達もみんな明日の授業のことでなく、次の1年のことを考え始めるような、春休みまであと数日――って日だった。 「近いうちに千帆に内緒で時間取ってもらえないだろうか? 慧史くん」 スマホ越しのお義父さんの声は普段より固い。 何か異常事態の訪れを予感させながらも、内容には触れてくれない。 気になったから、その日のうちにお義父さんに会ってきた。 会ったのは、最初にお義父さんに会った時とおんなじ駅構内のカフェ。先に待ってたお義父さんは景気付けみたいにアイスコーヒーを一気に半分くらい飲んでから、驚くべきことを語った。 なんて言っていいか言葉が出なくって、黙りこくったままの俺に更に言葉を連ねた。 「そんなに深刻にならなくていい、慧史くん」 「でも」 「ああ。ただ、自分たちが思ってるより、僕達には時間がないのかもしれない、なんてそんな焦燥に駆られてしまってね。だったら、千帆のドレス姿が見たい――短絡的だが、そう願ってしまったんだよ」 「すみません、こっちの事情で伸び伸びになってて」 「いやいやこちらも、口を出すつもりはなかったんだ。君たちには君たちの考えもタイミングもあるだろうから――そう、思ってたんだけどね」 事情が変わってしまえば、心境だって変わる。そして変わらないものなんて、この世の中にはない…。 「こちらも出来る限りの協力はするから。結婚式を挙げて欲しい」 あんな話を聞かされて、お義父さんに頭まで下げられたら。俺のプライドなんて、こだわってる場合じゃなくって。 「わかりました」 俺は即答してた。
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