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~★~☆~★~☆~ 「『自分の結婚指輪は要らない』は、やっぱりまずかったんじゃないのお?」 さっくりと、あたしの愚痴への感想を言って、七海はあたしのつめ先にさっと刷毛を滑らせる。 もう片方も塗ると、ピンク色の爪の先に白い縁取りが出来る。わあ、可愛い。フレンチネイルなんて、初めて。 「…そう、なのかなあ。でも、ホントあれこれお金使っちゃってるし、あたしは別にいいのにな…」 「ちぃはあんまりこだわらないもんね。そういうの」 「うん。ピンキーリングもあるし、エンゲージもあるし、十分だと思ってる…」 「遠藤ちゃん、プライド高いからね。妻に情け掛けられるのなんて、絶対嫌だったんじゃんない?」 『絶対嫌』かあ…。 あれから、なんとなくけいちゃんとはぎくしゃくしたまんま。 「結婚って難しいね…」 あたしの暗い気持ちとは裏腹に、華やかな可愛らしい装飾を七海は小さな小さなキャンバスに施して行く。 ストーンを乗せて、トップコートを塗って。「出来た」って、七海の手があたしの手から離れてから、あたしはまじまじと自分の十指を眺めた。 淡いピンクのベースに白いラインの入った先端。ピンクと白の間のきらきらしたストーン。 「可愛い。七海凄いね、ネイリストの勉強もしてるの?」 「ううん。ネットで簡単可愛いやり方見たから、やってみたくて。私は爪、伸ばせないし、ネイルも派手なのダメだから」 そう言って、七海は自分の左手を見つめる。意外に美容学校って制約多い。器用な指先は確かに何の装飾もないし、爪も短い。 あたしは実験台らしい。こんな素敵な実験なら、いつでもモルモットになるけど。
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