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そう思って本気にしてなかったのに。
次の日には忘れてたのに。
けいちゃんの高校が春休みに入った日――あたしは、けいちゃんからある誘いを受ける。
「千帆、今日予定空いてるよね。あとで一緒にみなとみらい行こ?」
朝食のオニオンベーコンブレッドをかじりながら、けいちゃんが言う。
今日はふたりともお休みだから、いつもよりゆっくりめの朝ごはん。
「いいけど…何処行くの?」
「何処って…式場抑えないと。あ、みなとみらいより元町とかのがいい? 幾つか教会とかホテルとかゲストハウス、ピックアップしたから見に行こ?」
そう言えば忘れてた。プロポーズもこんなノリだった。冗談としか思えないことを、本気でやる人だってことを――
「えぇぇぇぇぇっ、けいちゃん、あれ、本気だったの?」
思わずのけぞって叫ぶと、けいちゃんの方が意外そうに眉を上げる。
「え、何、千帆、何だと思ってたの? うん、する、って何回も言ってたじゃん」
「…酔っぱらいの戯言と、ベッドの上の睦言?。どっちも本気にしちゃダメよってお母さんが…」
「千帆、難しい言葉知ってるね」
けいちゃんは意外そうに言ってから。
「じゃあ、しないの? 結婚式」
がっかりして肩を落とす。
「え、しないとは言ってないけど、でも、先立つモノとかいろいろいろいろ…」
「あーまあその辺は、超豪華な挙式とかは無理だけど、今、割りとリーズナブルなプランもあるし。つーか、千帆自身はどうなの? 結婚式したくないの?」
「そんなの…」
決まってるじゃん。あたしの答えなんて、いつだって笑えるくらいシンプル。
「したいっ」
あたしははっきり答えると、勢いづいて、けいちゃんの肩にしがみつく。
「っと」と2、3歩後ずさりながら、あたしの身体をけいちゃんは抱きとめる。
「けいちゃん、あたし、10代のうちに結婚式したいな」
「え…」
既に3月の終わり。あたしのハタチの誕生日までは3ヶ月を切っていた――
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