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首筋からの本音
Sさんの同僚は、格付けが好きで自分より優れている人と思えば媚びて、劣っている人と思えばきつくあたったりする、二面性の激しい性格なのだそうだ。
ある日、彼女が首の後ろに大きな絆創膏をして出社してきた。
怪我でもしたの、と訊くと「誰にも言わないでね」と答えられ、更衣室へ連れていかれた。
昨晩から、痛いし、うるさくてたまらないの。
ぺりぺりと、同僚が絆創膏をはがす。
そこには、赤黒い唇が、ぱくぱくと開いていた。
がちゃがちゃの、歯並びの悪い前歯をむき出しにし、そいつは低くしわがれた声で、ぶつぶつと何かをつぶやいている。
……あいつ、いっつも同じアイメイクだよね。安っぽい。
……パンプスの踵もはげたまま、女子力なさすぎ。
……手際も悪いし、太っているし、邪魔で汗臭い。
Sさんは更衣室の、大きな姿見にうつる自分にはっとした。
確かに、いつも同じアイメイクに口紅しかしていない。パンプスも買い替えるのが面倒で、ついつい踵がはげたままで、はいてきている。太ってきたのも、うそじゃない。
ごめん、ごめんなさい。
黙っていても、こいつがみんな、しゃべっちゃうの。
ぐずとか、のろまとか言うの。
社長とかにも、はげとか、じじいとか、すけべとか平気で言うの。
だから、絆創膏で隠しているの。
どうしよう。
こいつができるまで、ぜんぶ隠してきたのに、どうしよう。
Sさんは「病院にでも行けば?」と答えて、同僚を残したまま、仕事へ戻って行った。
同僚は、ほどなくして辞めた。
辞める間際、急に、独り言が多くなったと、皆が噂していたそうだ。
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