365人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ
ユキトの死を醜い血で染めてしまう…。ルカのその言葉に、タカシは膝を折った。肩を落として、悔しそうに叫び声をあげ…。
「………泣いて、下さい。あなたは、それをずっと我慢してきたから」
ルカはタカシのそばに屈みこみ、彼の背中をそっと撫でた。
強い人だ…………。だからこそ、泣いてください………。あなたは滅多に泣いたりしない人なんでしょうね、タカシ………。
タカシをそのまま抱きとめて、ルカは彼の震える背中を、何度も何度も撫で続けた。
*******************************
ルカは今日もいつものように病院で診察をしている。あの日以来、タカシとは会っていない。だが、不思議と離れていても、以前よりも彼を身近に感じることが出来る気がした。彼はもう、ユキトの仇を討つことはない…。そう信じることが出来る。
帰宅しようといつものようにスタッフ用のエントランスを出たところで、ルカは柱の影に見覚えのある姿を見つけた。タカシだった。
「………タカシさん」
やぁ?と少しはにかんだような、こどもっぽい笑いで、タカシは手をあげた。
「ねぇルカ……今夜、暇?オレ、あなたのために貸切ライブするから…」
そのセリフを言うために、恥ずかしがり屋の彼がどれほど頑張ったのかが、ルカには痛いほどわかる。いまだにそっぽを向きながら、ルカと目を合わせないようにしているタカシ…。
「……行かないわけないでしょう?それにオレ、ケーシー脱いでこんなところであなたを見つめてはいませんよ…」
バツの悪そうなタカシの首に手をまわし、ルカは彼を抱き寄せた。
「愛しています…………タカシさん」
二人の頭上には夏の夜空が広がっていた。止まない雨がないと、まるで教えてくれているかのように。
最初のコメントを投稿しよう!