第二章 彷徨う魂

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 ルカが一緒に住み始めたことで、タカシの生活も少し変った。ストリートジャーナルをたまに買うぐらいだった新聞も新聞社を変え、毎朝ドアポストに届くようにした。夜は酔っ払って寝てしまうようだった生活も、ルカの仕事帰りを待ったり、迎えに出てみたりするようになった。一緒に暮らし始めて充実できているのは、むしろ自分のほうだ…とタカシは思った。  玄関ポーチに近づき、ドアポストから投函されたNYタイムスをルカは拾った。そこに、一通の封筒が造作なく足下に落ちた。それは日本から来たエアメールだった。  タカシと住み始め、自分宛の郵便物もこちらへ転送してもらうことにしていたのだ。宛名には“山口瑠歌先生御侍史”と書かれている。自分に宛てられた日本の大学病院からだった。確認すると、内容はルカの論文が認められ、ドイツでの大学病院へ客員教授として、招聘が来ているという内容だった。そのために日本に一時帰国せよ…とある。  自分にとって、チャンスといえば、チャンスだった。だが………。ルカは玄関口から、キッチンに立ってスクランブルエッグを味見するタカシを見た。「あちっ…!ま、我ながら上手にデキたもんだ♪」  そんなふうに上機嫌な彼を見て、ルカは自分のなかでの彼の存在の大きさにあらためて気付いていた。そう、もう未来を迷わずに選ぶことは不可能になっていたのだった。
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