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あの玄関でのタカシは………。
…………了解、ハニー。
キスをして、名残り惜しそうに指先で、そっと自分の頬を撫でて離れていった。
まさか…!?
ルカは思いついたようにタカシの携帯電話に架けてみる。
『system is not getting the response from subscriber's mobile phone(お架けになった電話は、電波の届かない場所におられるか、電源が入ってないため、かかりません…)』
タカシさん…………!?
それはまるで土砂降りのなかに独り、放り出されたような、そんな気分だった。あの玄関でのキスは……さようならのキス。優しいタカシが選んだ、残酷な答え。
「あなたは、最初からオレ一人で…ドイツへ行けと?」
震える体が崩れ落ちそうだった。ルカは声を上げて泣きたいのをひたすら耐えた。そして、それを遠く柱の影から密かに目立たぬよう、そっと見守るタカシがいたのだ。
「………ごめん、ルカ」
タカシは柱にもたれ、背を向けて眼を閉じた。今なら…『びっくりした?』そんな風に飛び出して行けば間に合う。
オレの愛してやまない大事なルカ。新天地は、お前の腕を必要としているんだ。そのためには、オレはあまりにもお前に負担でしかない。お別れなんだよ、ルカ…………。
ロビーに成田行きの飛行機の搭乗を急かす、アナウンスがくりかえし響く。
「タカシさん……愛しています。だからきっと……オレ、ドイツから戻ったら…」
あなたを必ず捜してみせます!!
そんな決意を胸に抱き、ルカが搭乗口へと消えてゆくのを、タカシはいつまでも、いつまでも見送るのだった…。
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