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彼が指さした先にある電話器は、握り手の細い、クラッシック調のダイヤル式だった。ホント、いまどき流行らねーっ!と鳴海はいつも思っている。
「佐屋、そろそろOPENのプレート、表に出しておいてね」
「ハイ、マスター。ほら、鳴海、ちゃんとモップがけしておいて!今日は君が当番だろ?」
「へいへい、わかってるって」
やる気があるのかないのか、マスターの営業意欲は全く持って不明ではあるが、この店には何人か常連客がいる。一番熱心に通いつめている客だが、彼はいつもほぼ開店直後から閉店までいたりする。
木のドアの建て付けがいまいち良くはないので、ドアが開くときには少し耳障りな音がする。ある意味、ドアベルなどに頼らずとも、来客を知らせてくれる音だろうか。
「……せんぱーい!タカシ先~輩!!聞いて下さいよー」
広告代理店に勤めるリーマン、ヤマダはマスターの大学の後輩だった。マスターが大学卒業後、黙って渡米してしまったことを未だに愚痴ったりしている。それほどに彼は、何故かタカシに対して崇拝に近い思いをもってこの店に入り浸っているのだ。
「…いらっしゃい。あらら、どっかでビールでもひっかけてきたわけ、ヤマダ?」
マスターがおしぼりを持ってヤマダに渡すと、彼はそれをむんずと掴み、ばさばさと広げたあとに顔に当てていた。
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