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ハービーのアップテンポな曲を選んで弾いていた佐屋だったが、ヤマダの様子を察して、途中から別の曲に演奏を変えた。
「ま、それも人生でしょ、ヤマダ?実際、お前はよーく頑張ってるよ。オレなんてリーマンなんか、絶対ムリムリ!」
タカシは片手をプラプラと振ってみせた。
「お前は偉い!」
「頑張ってるよ」
「充分やってるよー」
などと、気の無い感じではあるが、タカシは人を励ますのがとても上手かった。だからかもしれない。社会でなかなか芽が出なかったり、傷ついて前に進めない連中が、このバーにタカシ目当てで集ってくるのだ。
するとまた、ドアが開く鈍い音がして、新たにお客が入ってきた。
「ああ、いらっしゃい。相変わらずお揃いで」
そして相変わらず、商売気があるのかないのか判らない、タカシのセリフ。
「よぉ!ここがオレたちのいきつけの店って決めてやってるのに、相変わらずそっけないな、タカシ」
やってきたのは、アズマとクレハの大人なカップルだった。この二人が入ってくると、さすがにルーカスもムーディーな雰囲気になる。
「注文は何する?」
アズマとクレハは店の片隅の丸テーブルに座って静かにピアノを聴いてくれる上客だった。そしてその席は、いつもの指定席になっている。
「オレはロック、彼女はいつものカクテルで」
「了解。聞こえたー?マスター!ロックといつものカクテル~って!!」
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