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「満員って言ったって、こんなにガラガラなのに、店入ったらバレバレじゃねーか!しかも11時閉店?やる気ねーだろっ」
鳴海が文句をいうとタカシはちょっと焦り気味に切り替えした。
「オレーが風邪ひいて早退って言えばいいんだよ!!」
「…早退っつったって…学校じゃあるめーし、ムチャクチャだって」
「鳴海、マスターはルカ先生と二人っきりになりたいんだと思うよ。そっとしておいてあげなきゃ…。それに二人共、思いつめてなかった?」
肩を叩きながら佐屋は鳴海をなだめた。
タカシはルカを店の外へと連れ出した。…といっても、歓楽街のなかにある、ちっぽけな公園だった。区画整理で余った土地に、なんとなく、植栽してベンチを置いたような、殺風景な公園だった。少し離れた植え込みの傍に路上生活者が寝そべっている。
「…缶コーヒーで悪いけど…」
途中の自販機で買った、缶入りコーヒーをタカシはルカに手渡した。
「…オレがブラックしか飲めないこと、ちゃんと覚えていてくれたんですね」
タカシが手渡した缶コーヒーに“ブラック・ノンシュガー”と表示されたラベルを見て、ルカは嬉しそうに微笑みを浮かべた。
「……忘れるわけないでしょ?アンタ、強烈なキャラだったし…」
二人で並んでベンチに腰掛け、缶コーヒーを口にした。
「……死ぬほど、会いたかったんですよ、タカシさん」
ルカの頬から鼻にかけて真一文字についた傷さえも、ほんのりと赤くなった。
「……ホント、変ってないね。覚えてる?アンタ、メスでこの傷をつけてからなんて言った?」
タカシはルカの顔の傷をそっと静かに指でなぞった。
「…そんなの、忘れちゃいました」
ルカは照れて俯いた。
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