366人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ
ルカの診療所は規模が小さいのだが、連日満員になっている。雑居ビルの2Fに位置しているが、そこへ続く階段にまで患者が並ぶことが多々あった。
もっとも、彼のソフトな人当たりのせいもあるかもしれない。歓楽街の患者はさまざまだった。夜の商売を生業にしている者、その界隈に関わっている者(いわゆる、その道の者である)、生活弱者、いろいろワケありの人間など、とにかくどこからともなく集ってきていた。
そんなふうに慕われる彼を、とても心配している者がいる。名前は上杉タカシ。BARルーカス のオーナー兼マスターだ。
「心配なんだよねぇ…」
今日も彼は店のカウンターで数え切れないほどの溜息をついている。それを知っていてあえて無視をしているのは、彼に雇われているバイトの二人。ピアノ担当の佐屋と、バーテン担当の鳴海だった。
「……また始まったぞ、佐屋?」
「……しょうがないよ、鳴海。マスターはルカ先生が戻ってから、恋愛モード爆裂中だからね」
はぁぁぁ…。タカシはまた深い溜息をつく。とうとう無視しきれずイライラが募った鳴海が、彼に詰め寄った。
「ダァァ~!鬱陶しいぞ、マスター?なんでそんなにルカ先生が心配なんだ?ルカ先生、男じゃん!?それにこの界隈じゃ、マスターと付き合ってるの、超有名じゃねーか?なのになんでそんなに心配なんだっ!!」
すると、タカシはまるで鳴海の言葉を待っていたかのように、溢れるほどの胸の内を吐露しはじめた。
「わかってないなー鳴海は。ルカはね、男から見ても美人なの!なんていうか、そう、魂がピュアだから。顔の傷とか何故出来たか聞きたくない?いや、聞かせるの、もったいないなー」
思わず鳴海のこめこみに、血管が浮き出てくる。
「ダァァッ!鬱陶しいっ!なんでルカ先生がマスターのこと好きって信じられないんだ?バッカじゃねーのか、あァ?」
「はい、はい。オレはお前みたいにデリカシーのないガッついた恋愛してないの!どうせ佐屋と毎晩よろしくヤッてんでしょ?ガキは余裕がないっていうかなんていうか…。その点オレとルカは違うの!お前らには死んでもわかんねーだろうなぁ…」
最初のコメントを投稿しよう!