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ハーツイーズ大結婚式物語・5
ファニーと共にハーツイーズ街に来たキュッリッキは、ファニーと別れて以前住んでいたアパートに向かった。
「こんにちはー、おばちゃんたちいる~?」
アパートの中庭に入り、建物に向けて大声を張り上げる。
「おやおや、キュッリッキちゃんかい?」
頭にカラフルな布巾を巻いたおばちゃんが、テラスから顔をのぞかせた。
「お久しぶりなの~」
元気よくブンブン両腕を振って、キュッリッキはにこやかに見上げた。
次々にテラスからおばちゃんたちが顔を出し、一気に騒然となった。
「あのねー、今日はちょっとお願いがあってきたのー」
「ちょいとそこで待っといておくれね。今降りていくから」
「はーい」
ドタドタと足音が建物を震わせ、数分もしないうちにおばちゃんずが中庭に集合した。
「元気だったかい? 相変わらず細っこい子だよお」
「でも顔色もイイし、大丈夫そうだねえ」
おばちゃんたちは代わる代わるキュッリッキをハグして、再会を喜んでくれた。
「今日はどうしたんだい? お願いがあるって言ってたが」
「うん。あのね、友達のファニーとハドリーが結婚するって知ってる?」
「そういや、ハドリーちゃん結婚するとか言ってたけど、ファニーちゃんとだったのかい」
「あんまり詳しいことは判らないんだよ」
「傭兵を休業して、今月中に実家に帰るって話は聞いていたけどねえ」
どうやら結婚のことは軽く伝わっているだけのようだ。
「ハドリーったらね、神殿で簡潔に済ませるだけにするって言うのね。せっかくのお祝いなのに。だから、アタシが2人の結婚式を、チョー盛大に開いてあげることにしたの!」
「おやおや」
ドッと場が賑わう。
「でねでね、おばちゃんたちにも協力して欲しいの~」
「それは引き受けないわけにはいかないねえ」
「もちろん協力は惜しまないよ」
「わーい、ありがとう」
頼りになるおばちゃんずの協力を得られることになり、キュッリッキは早速頼みたいことを書いた紙を配った。
「なになに、傭兵たちを総動員してパーティーに参加させて欲しい」
「会場はビーチなので、飲食店に露店を出させて欲しい」
「パーティーしながら警備もして欲しい」
「終わったら掃除を手伝って欲しい」
「あはは、お安いご用さね」
「婦人会の力を持ってすれば、こんなの余裕だよ」
「アタシたちも料理や酒なんかも、沢山沢山用意するから、タダ酒飲めるぞーって大宣伝してね!」
「こりゃ亭主どもが酒を目当てに大喜びだ」
「タダ酒飲み放題につられてくるよ」
大笑いが中庭を賑わし、テラスから亭主達がおっかなびっくり覗き込んでいた。
「パーティーは来週だから、みんなヨロシクね!」
「ああ、任せておきなね」
アパートを出てしばらくすると、メルヴィン、ルーファス、ハドリーの3人が揃って歩いてきた。
「あ、メルヴィン!」
キュッリッキは大喜びで小走りに駆け出す。
「おや、リッキー」
飛び込んできたキュッリッキを優しく抱きとめ、メルヴィンはアリサのほうへ顔を向けた。
「追今しがた、お嬢様が住んでおられたアパートに行ってました」
「アパートのおばちゃんたちに、結婚式でのお手伝いをお願いしてきたの」
「そうだったんですか」
「あら、じゃあオレたちの手間、省けたみたいだね」
「にゅ?」
「オレたちも、アパートの方々にお手伝いを頼みに行こうとしてたんですよ」
「そうなんだ。じゃあもう解決!」
「そういや、おばちゃんたちに結婚することあんまり話してなかったわ、オレ」
ハドリーが申し訳なさそうに頭をカシカシと掻く。
「アタシがちゃんと話しておいたから、だいじょーぶだよ!」
「そか…、なら来週までは、おばちゃんたちに会うとひたすら「おめでとう」ラッシュが始まるんだな…」
「嬉しんだか、照れるんだか、こそばゆい感じだねえ」
ルーファスが面白そうに言うと、ハドリーは苦笑した。
「まあ、祝ってもらえるってのは嬉しいです」
「今日はいっぱい頑張ったんだよ」
寝支度をすませてベッドにころんと横になり、キュッリッキは膝を抱えた。
「結婚式は来週ですから、準備時間が足りませんね」
「うん。でも、出来るだけいっぱい、いっぱーい盛大にしてあげるの」
大事な友達2人の結婚式。思い出に残るくらい盛大に、楽しい結婚式をしてあげたい。
「そうですね、頑張りましょう」
メルヴィンはキュッリッキの傍らに寝そべると、キュッリッキの肩をそっと掴んで抱き寄せた。
「あの、リッキー」
「なあに?」
「そのですね……」
メルヴィンは顔を赤らめ、明後日の方向へ視線を泳がせる。
「その、抱いても…いいですか?」
キュッリッキはメルヴィンの顔をジッと見つめると、
「うん、いいよ」
そう言って、メルヴィンの胸に擦り寄った。その様子に、メルヴィンの目が点になる。
「いや、そうじゃないだろう!!」と、その場にライオンの皆がいたら激しいツッコミが入るところである。
ギュッとハグするとか抱っこするというレベルしか、キュッリッキは思い浮かんでいないのだ。
初めてキュッリッキを抱いたのは、もう一ヶ月も前のこと。それ以降は、ベルトルドたちを失った悲しみに涙を流すキュッリッキに、求めることは酷だろうと我慢していた。
今はもう立ち直った様子なので、今夜はどうかと思ったが。
(こ…、ここで凹んでたら、全く進歩しない!)
メルヴィンは心の中で己を奮い立たせる。
一方、全く抱きしめてこないメルヴィンに、キュッリッキは不思議そうに首をかしげてみせた。
何か考え事をしているようなので、キュッリッキは促そうとメルヴィンの胸にそっとキスをする。
「どうしたの? メルヴィン」
その瞬間、メルヴィンはキュッリッキを抱き寄せると、やや荒々しく唇を重ねた。そして息苦しくなるまで、愛らしい唇を貪る。
色っぽい雰囲気に持ち込むには、暫くは自分でリードしていかないとダメだと、改めて悟った。
「すみません、物凄く、我慢の限界です!」
唇を解放されたキュッリッキは、ようやくメルヴィンが求めていることを理解した。
「気がつかなくて、ごめんなさいなの…」
顔を真っ赤にし上目遣いにメルヴィンを見つめ、身体の力を抜いて身をあずけた。
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