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ハーツイーズ大結婚式物語・6
「おはよー、リッキー」
「おはようファニー、いらっしゃーい」
結婚式当日、朝早くからファニーとハドリーはヴィーンゴールヴ邸へとやってきた。
ドレスやスーツに着替え、大まかな段取りを打ち合わせるためである。
「あーあ、いよいよかあ」
やや緊張した面持ちで、ドレッサーの前に座りながら、ファニーがため息混じりにぼやく。
「今日の結婚式は、すっごーく盛り上げるから、楽しみにしててね!」
ベッドの上に座りながら、キュッリッキは力拳で断言する。
「うん、もうずっと楽しみにしっぱなしよ」
メイド数名に取り囲まれながら、ファニーは花嫁姿にドンドン変身していっていた。
「今日はイイお天気になったし、トール様たち約束守ってくれたみたいで良かったの」
「トール様?」
「アルケラの神様」
「や、約束って…」
「昨日のうちにアルケラに行ってきて、明日晴れにしないと、もうここへは遊びにこないって脅してきたの」
「……」
神様を脅すとか「召喚士サマスゲー」とは胸中でつぶやくファニーとメイドたちだった。
召喚士がアルケラの巫女だということは、一部の者たちしか知らないことだ。ファニーも知らないことなのである。
「さあキュッリッキお嬢様も、お召かえしてしまいましょう」
「そっか、青いドレス着るんだね」
「はい、こちらへ」
侍女のアリサに促されて、キュッリッキはベッドから降りた。
もう肌寒い季節なので、キュッリッキのドレスは長袖になっていた。
「生地が薄いので、お寒いようでしたら、ショールを羽織ってくださいませ。この季節の海辺は寒く感じると思いますので」
「飲んで食べての大騒ぎになると思うから、逆にアツイかも」
「確かに、傭兵の皆様が沢山おいでになるんでしたっけね…」
ビーチが大盛り上がりする様子を想像し、アリサはゲッソリと口の端をひきつらせた。
首筋が寒かろうと、髪型はシンプルにサイドの髪を後ろで留め、可愛らしい花飾りをつけるだけになった。
それだけでもキュッリッキは、極上の装いをしているように周りには見えてしまう。しかも、今日はお祝いごとなので表情の輝きも10倍増し状態だ。
「今日の主役はあたしなのに、あんたのほうが綺麗なんだから、アイオン族ってズルいわ」
キュッリッキの姿を見て、ファニーは小さく苦笑した。
「そんなことないよ、ファニーだって綺麗だもん」
「ありがとん」
その時ドアをノックする音がして、マリオンが顔をのぞかせた。
「あらん、もう2人ともぉ準備できたのねぇ~」
「うん! いつでも出動できるよ!」
「おっけぃ~ん。じゃあ、披露宴会場はアタシたちに任せて、2人は神殿へ向かって儀式を済ませてきちゃってぇ」
「はーい」
「判りました」
キュッリッキとファニーが玄関ロビーに姿を現すと、先に待っていた一同が一斉に階段上を見上げた。
「凄くきれいだよ、ファニーちゃんとキューリちゃん」
ニコニコとルーファスが言うが、キュッリッキとファニーはマーゴットを見てギョッとひいた。
キュッリッキの脳裏に真っ先に浮かんだ言葉は「下品」だった。
ファニーの脳裏に浮かんだ言葉は「ステージダンサー?」だった。
キュッリッキとファニーの表情に気づいて、カーティスは深々とため息をつく。メルヴィンも苦笑を浮かべていた。
それは、ウェディングドレスというより、ケバケバしいステージ衣装と見まごうばかりの奇抜な派手さである。
フワフワとしたファーの飾りはバスケットボール大くらいあり、それが肩を大きく飾り、銀色のスパンコールがファーに貼り付けられて、揺れるとキラキラと煌めいている。そして、複雑に編まれた白いレースの袖が幾重にも巻かれ、手の先まですっぽりと覆い隠していた。
胴には人工ダイヤモンドの粒が覆い尽くすように散りばめられて、シルクの生地の上で一際煌きを放っている。
ウエストから裾へ向けては、10段くらいのフリルが折り重なり、銀色のスパンコールが散りばめられ、更に大ぶりに作られた花飾りがランダムに貼り付いていた。
アンバランスに大きすぎるティアラを頭上に乗せ、マーゴットは自信たっぷりに2人を睨みつけた。
「まあ、随分と質素なウェディングドレスなのね」
顎をそらせ、勝ち誇ったように言い放つ。
ファニーは何か言おうとしたが、あまりにも圧倒的な下品すぎるドレスに慄き、言葉が浮かんでこなかった。
「マーゴット随分と派手なドレスなんだね…」
イケナイものでも見たかのような顔で、キュッリッキが絞り出すようにそうに呟く。
「今日の主役は私なのよ。特注で作らせたドレスなんだから」
「ふ、ふーん…」
「さ、さあ、行きましょうか」
引きつった笑みを浮かべながら、メルヴィンが皆を促した。
カーティス、マーゴット、ルーファスが先頭の馬車に乗り込み、キュッリッキ、ファニー、ハドリー、メルヴィンは自動車に乗った。
「警備にあたってる軍人たちが、爆笑を堪えてたな」
「あたしが花嫁でヨカッタでしょ」
ハドリーとファニーは、ヤレヤレと肩をすくめた。
「確かに目立つとは思うんだけど…、あんなドレス、アタシ嫌だなあ」
「そうですね。リッキーはもっと上品なドレスが似合いますから」
「あの女、顔が残念な上にドレスまで残念すぎて、ホント現実が見えてないのね」
「ファニーに勝ちたいんだろうな。女心ってやつだ」
「まあ、あの執念深さは女よね。でも、あたしには100%勝つことは無理だわ」
「一番じゃないと嫌なようですから…」
「マーゴットって変わってるね」
一番を狙って努力することはイイことだ。しかしマーゴットの場合は、別のベクトルを向いている。
自分を知らず、周りを認めず、現実を受け入れられない。
キュッリッキやファニーをライバル視しているが、それはライバルという意味とは違っている。
2人を認めた上で張り合う、ではない。2人が自分を差し置いて、周りにチヤホヤされている、それが気に入らなくて許せないのだ。
「目立つって意味では、あの女が一番かもしれないわね」
ふふーんと嫌味ったらしく笑うファニーに、キュッリッキは大きく頷く。
「ああいうの、悪目立ちって言うんだよね」
「いえーす」
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