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ハーツイーズ大結婚式物語・9
結婚披露宴は盛り上がりに盛り上がった。
便乗して結婚したカーティスとマーゴットのためにも、傭兵界にしっかりお披露目をして祝い、ライオン傭兵団が総力を挙げて考え出した催しが飛び交う。
その中にカラオケ大会もあったが、参加する気満々のキュッリッキは出場を却下された。
「うわああああああん、アタシも出場したいのおお」
メルヴィンの膝に突っ伏して泣き喚く。
美人コンテストで強力な音痴を披露したため、メルヴィンですら却下していた。
「キューリちゃん、一体誰にあんな凄ま…凄い歌を教わったの?」
ルーファスが言葉を選んで問いかける。
「トール様」
ベルトルドとアルカネットの葬儀で見た神様の一人だと、ルーファスは記憶をたどった。
「アルケラへ行ったとき、よくトール様と一緒に歌ったの。トール様は雷を落とすとき、山を震わせる程の大声で歌うから、負けないように頑張って頑張って大声を出せるようになったんだよ」
――トール神、あんた…
聞いていたライオン傭兵団の心に霜が降りる。
キュッリッキを強烈な音痴にしたのは、手の届かない神様。――殴りようがない。
カラオケ大会中キュッリッキは駄々をこねて泣き続け、催し物がクイズ大会になると、涙は引っ込み特設ステージにすっ飛んで行った。
夕方近くになるとビーチには傭兵たちだけではなく、何事かと集まった一般人も加わり、ハーツイーズ街の飲食店の露店も30店を超えて、全く静まることがない。
そして夜になると、盛大な花火大会になった。
花火玉はあちこちから大至急買い集められたらしい。
「あらあ~、花火に間に合ったわン」
ラフな半袖シャツ姿のリュリュとシ・アティウスが、花嫁花婿のテントに姿を現した。
「どうしても仕事抜けられなくって、今頃になってゴメンナサイね。4人とも結婚おめでとう」
「おめでとう」
「いえ、お仕事ご苦労様です」
カーティスが苦笑しながら会釈した。
「遅くなったお詫びはご祝儀に弾んでおいたから。――それにしても、随分と盛大になってるわねえ」
「一生思い出に残るお祝いにしたかったの」
ソーダ水のグラスを両手で持ち、キュッリッキはちょっとお疲れ気味の顔で、にっこりと微笑んだ。
「これだけ盛り上がってるお祝いなら、一生忘れないわネ」
夜空を彩る花火、ビーチで酒盛りする傭兵たち、露店に群がる人々をゆっくり眺め渡す。もはやただの宴会に成り果てているが、みんな笑顔で楽しそうだ。
キュッリッキだけの力ではない。親友をめいっぱい祝いたいキュッリッキの心に突き動かされ、ライオン傭兵団や知人たちが協力し、今日の盛大な披露宴が成功したのだ。
かつて他人に心を開かず、壁を作って、人付き合いがうまくできなかったキュッリッキをリュリュは知っている。それを思うと、キュッリッキの成長ぶりが嬉しくてしょうがない。
(ベル、あーたの力よ…)
生前ベルトルドの愛と優しさがキュッリッキに伝わり、皆に好かれる女の子に変えた。そしてメルヴィンと相思相愛になり、更に素敵な女の子になった。
明るい笑顔を浮かべるキュッリッキを眩しげに見やり、リュリュはベルトルドのことを想って花火に顔を向けた。
(あーたの暴れん棒、まだしゃぶり足りなかったわ)
披露宴は日付またぎまで続き、疲れた様子のキュッリッキを心配して、リュリュはメルヴィンに連れ帰るように言った。
「小娘じゅうぶん頑張ったわ。今すぐ友達とお別れじゃないんでしょ? もう今日は帰って寝かせなさい」
「判りました」
「うん…」
眠そうに目をこするキュッリッキを、メルヴィンは腕に抱きかかえる。
「皆さんすみません、先に帰りますね。後片付けお願いします」
「おう、こっちは気にすんな」
「おやすみ~」
みんなに挨拶をして、メルヴィンは自動車へと向かった。そして自動車にたどり着く頃には、キュッリッキはすっかり眠っていた。
「お疲れ様でございます、旦那様」
自動車の脇に佇み、運転手はドアを開けた。
「ありがとう」
メルヴィンはにっこり微笑み、自動車に乗り込んだ。
「お嬢様をお起こししないよう、ゆっくり走らせますね」
「すみません、お願いします」
運転手は礼儀正しくお辞儀をして、自動車を発進させた。
「だいぶ長い時間待機させてしまって、疲れたでしょう」
「そんなことございませんよ。待機中は自由行動でいいと言われていましたから、露店でしっかり飲食してました。ただ、運転があるので、お酒は飲めませんでしたが」
にこやかにそう言って、運転手は右手を隣に伸ばし、ゴソゴソと動かして瓶を持ち上げた。
「あらかじめ、お嬢様から高級なお酒をいただいております。帰ったらいただこうと思います」
「それは良かったです」
細かなところまで気配りができている。キュッリッキがこの日のために、どれだけ頑張ったか判って嬉しくなった。
ぐっすりと眠るキュッリッキを優しく見つめると、小さな額にそっとキスをした。
ヴィーンゴールヴ邸に戻ると、笑顔のアリサが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。お嬢様は、眠ってしまわれたんですね」
「ええ。張り切って頑張っていたから、すっかり疲れてしまったんだと思います」
「あらあら、これでは何をしても、朝までぐっすりですね」
キュッリッキの部屋に入ると、メルヴィンはそっとキュッリッキをベッドに寝かせた。
「自分の部屋でシャワー浴びてくるので、その間にリッキーの寝支度しておいてください」
「承りました」
アリサに全て任せると、メルヴィンは自分の部屋のある東棟に向かった。
キュッリッキの部屋は南棟にあり、メルヴィンの部屋となった屋敷の主の為の部屋のある東棟までは数分かかる。
とにかく広く大きな屋敷なので、疲れている時の移動は、ちょっとした一苦労だ。
ややうんざり気味に部屋へたどり着くと、乱暴に衣服を脱ぎ捨ててバスルームへ飛び込む。
熱いシャワーを頭からかぶり、メルヴィンは「ふぅ…」と小さく息をついた。
「来年は、オレ達も結婚式」
キュッリッキの願いで、来年に式を挙げることになった。
今はもう一緒に暮らしているし、式など形式的なものだ。しかし、ファニーのウェディングドレス姿を見たら、キュッリッキにも純白のドレスを着せて、腕に抱きたい。ますますそう思えた。
楽しみが先に延びはしたが、その前にいくつかしなければならないことがある。
その一つを思うと、メルヴィンの胸中は複雑な気持ちに包まれた。
「リッキー、どう思うかなあ…」
話をした時のキュッリッキの反応が気になり、シャワーに打たれたままメルヴィンは考え込んでしまった。
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