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ハーツイーズ大結婚式物語・7
「神殿での結婚式は、時間どんくらいかかるんで?」
料理の入ったケースを馬車の荷台に積み込みながら、ギャリーはマリオンを振り返る。
「小一時間程度で終わるはずよぉ。2組まとめてやっちゃうらしいからぁ~」
「神聖の誓いやら儀式的なことはすぐ終わるけど、役所的手続きが一番時間とるんですよね」
大荷物を手押し車で押してきたシビルが、縞の尻尾を揺らして言った。
神殿で結婚式を執り行う時は、同時に書類手続きや何やらも一緒にやってしまう。
「そっか。どのみち宴会はすぐ始まっちまいそうだな」
ギャリーは頷くと、シビルの運んできた荷物を、手早く荷台に積み込んだ。
「ギャリー、酒は現地か?」
「おう、さすがに運びきれねえから、ハーツイーズの倉庫を借りて、そこへ集めてある。海辺の倉庫場の5番倉庫だ。これ、カギな」
「了解だ。ビーチへ運ぶ作業をしてくる」
「頼む、ガエル」
「行くぞヴァルト、タルコット」
「俺様が力仕事とかだりーぞ…」
「文句言うなよ、せっかくの祝い事だ」
タルコットに窘められ、ヴァルトは唇をとんがらせて肩をすくめる。
3人が別の馬車で敷地を出ていくのを見送り、マリオンは手にしていたリストを確認した。
「シビルぅ、まだ料理ある~?」
「ええ、ザカリーさんが取りに行ってます。鍋物がまだいっぱい」
「おっけ~ぃ」
「これら100人分の料理だそうですが、到底足りませんよねえ」
「あはは~、だいじょーぶよん。ハーツイーズの各名店や酒屋に声かけまくって、ビーチで露店を出してもらうからぁ」
「わお」
「客はどんくらい集まるんだ?」
「んー、1000人くらいはくる予定みた~い」
「……そりゃ、結婚式の祝い事は関係ない連中も呼んでるんだろ」
「誰でも自由に参加おっけぃ、酒も料理も好きなだけ食べ飲み放題、しかも無料だからねん」
「支払いは全部キューリさんなんですよね…」
「よゆーよゆー。今のキューリちゃんにとってぇ、ハシタガネレベルよぉ」
「カーティス達はともかく、キューリにとっては特別な親友の結婚式だしな。惜しまず大盤振る舞いなんだろう」
「そんな健気なキューリちゃんのためにぃ、アタシたちぃも頑張りましょ~ぅ」
この世界で結婚式や葬式は、街に必ず在る神殿で執り行われる。そして結婚式のみ新郎新婦以外は、儀式への立ち入りを禁じられていた。
キュッリッキとメルヴィンは控えの間で並んで座りながら、4人の式が終わるのを待つ。
「中でどんなコトしてるのか、見れないのは残念だね~」
「そうですね。でも、オレたちも来年になったら式をしますから」
「だねっ」
そう言って、キュッリッキはメルヴィンの腕にギュッとしがみついた。
「アタシね、メルヴィンがドキドキしちゃうような、ウェディングドレスにするの」
「どんなドレスにしたいんですか?」
「裾はミニがいいなあ~、で、カワイイデザインのにする」
ウェディングドレスと聞いて思い浮かぶのは、オーソドックスな長いドレスだ。メルヴィンはキュッリッキのイメージを、なるべく正確に想像してみた。
きっと、誰よりも愛らしい姿だろうと思い、嬉しくなってキュッリッキの頭にキスをする。
「オレの花嫁が、世界一素敵だと思うと誇らしいです」
「メルヴィンだあ~い好きっ」
「終わったわよ~、イチャイチャしてるところ申し訳ないケド」
抱き合いながら2人の世界に浸っていたところへ、ファニーの涼しい声が浴びせられた。
「あ、スミマセン、お疲れ様ですっ」
顔を真っ赤にして、メルヴィンが顔を上げる。
「神殿での用事はすみました。披露宴会場へ向かいましょうか」
苦笑気味にカーティスに言われて、メルヴィンはキュッリッキと一緒に立ち上がった。
神殿の外には、新郎新婦の姿を見ようと、通行人が集まって賑わっている。そして、白いバラやユリに彩られた2人乗り用のオープン馬車が2台と、キュッリッキの自動車が留まっていた。
「先頭の馬車には、私が乗るわ」
ギャラリーに自らを見せつけるように顎を反らせ、マーゴットは返事を待たずに馬車に乗り込む。
全然ウェディングドレスに見えないドレスは注目を引き、ギャラリーたちの度肝を抜いていた。
「ハドリーさん、ファニーさん、マーゴットがわきまえずスミマセン…」
「いえいえ、オレ達順番にはこだわらないので、大丈夫ですよ」
「移動するだけだしね」
「ありがとうございます」
恐縮しながら頭を下げて、カーティスも馬車に乗り込んだ。
4人の様子を自動車の中から見つめ、キュッリッキはため息混じりに肩をすくめる。
「ホントはハドリーとファニーのための結婚式なのに…」
メルヴィンは苦笑するにとどめ、あやすようにキュッリッキの肩に手を回した。
仲間(かぞく)であるカーティスとマーゴットの結婚式も大事なのは、キュッリッキにもちゃんと判っている。
しかし今回は、大事な親友2人のために開いている結婚式だ。そのことを蔑ろにしているマーゴットに対して、悪い感情が浮かんでしまうのだろう。
「リッキー、ファニーさんが素敵な花嫁であることは、マーゴットさんが思いっきり引き立ててくれていますよ」
「そうなの?」
「ええ。なにせ、あれだけ酷い花嫁はいないですから」
にっこりと優しい笑顔で、メルヴィンは滅多に吐かない毒を吐き捨てた。
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