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メルヴィンは真面目なんです。・2
プロポーズの時に見せやすいように、あえてラッピングはしてもらわず、小さな箱に収めてもらった。
「結婚指輪も是非、当店をご利用くださいませ」
女性店員のほか、オーナーなどに見送られ、メルヴィンとルーファスは店を出た。
選んだ指輪は、金貨100枚分に相当する額だった。もっとするのかと思っていたメルヴィンの予想よりは、だいぶ下回っていた。
「指輪選び付き合ってもらって、ありがとうございました」
「オレなんにもしてないケドね」
「いえいえ、それでその…、相談というかなんというか、にも付き合ってもらっていいですか?」
「構わないよ。あそこの店でお茶でも飲みながら話そうか」
「はい」
甘いマスクのハンサムなルーファスと、端整で凛々しい顔のメルヴィンの2人が店内に入ると、中にいた女性陣がザワザワと色めき立つ。
「くはあ~~、久しく忘れてたよお、レディたちのこの熱い視線」
「は、はあ…」
「やっぱ、生きていく上でレディの熱い視線は、欠かせない栄養素のようなものだよネ」
「そ、そうですか?」
「そうだよ~。まあメルヴィンにはもうキューリちゃんがいるけどサ、決まった女性がいたとしても、レディの潤いは欠かしちゃダメだよ」
「悪い気はしないけど…、そんなモンなのかな」
案内された席に座りながら、ルーファスは魂から力説した。
女性なら手当たり次第誰でもいい、というわけではないが、概ねルーファスは女性には特別甘く優しい。それが美人で可愛く巨乳なら言うことなしだ。
亡きベルトルドも似たりよったりで、女好きはルーファス以上だったが、2人ともとにかくモテたし女性には優しかった。
愛想のいい笑顔を周囲に振りまきながら、ルーファスは運ばれてきた紅茶のカップを手に取る。
「さて、相談ってなに?」
「はい、実は」
心を落ち着かせるように紅茶を一口すすり、肩で一息ついてメルヴィンは姿勢を正した。
「リッキーにプロポーズしたら、オレの実家に連れて行きたいんです」
「おお、ご両親に紹介するんだね~」
「ええ。オレと結婚したら、オレの両親も含め家族となりますから、両親に紹介しないわけにもいきません。結婚式にも呼びたいですし」
「だよねえ」
「ただリッキーのほうは、赤ん坊の頃に捨てられている過去がありますし、オレの両親に引き合わせて、リッキーがどう思うか心配で…」
片翼で生まれてきたという理由で、生まれてすぐ捨てられ、同族から忌み嫌われたという不幸な生い立ちがキュッリッキにはある。
そして皇王主催の戦勝記念パーティーにおいて、両親と最悪の形で再会を果たしている。その時のことを、キュッリッキは殆ど話さない。
過ぎたことだと思っているのか、思い出したくもないのか、心の中で一応の解決をしているのか。
今はもう忘れていることだとしても、婚約のことをきっかけにして、思い出して嫌な気持ちにさせてしまわないだろうか。
「キューリちゃんは、出会った頃より心は大きく大きく成長していると思う。とくにベルトルド様とのことがあって、更に成長している」
ベルトルドから辱められ、アルケラの巫女としての力を利用された。憎んでも憎んでもまだ足りないはずなのに、酷いことをされた以上に愛されていた事実が、キュッリッキの心から憎しみを拭いさっていた。
そして今は悲しみを乗り越えて、前に進み始めた。
それに心の深い傷の原因である片翼は、二か月前に解決している。生前ベルトルドが手配して、治してくれていたのだ。だから今のキュッリッキは片翼ではない。
心の傷が癒えるには、まだまだ時間が必要となる。でも、メルヴィンという大きな勇気を得た今は、過去と向き合い、少しずつでも乗り越えていかなくてはならない。
「オレの尺度で推し量って良いものではありませんが、今のリッキーなら、辛い過去――親のこととも向き合うことができるんじゃないかな、とは思うんです。いえ、向き合って一歩踏み出してほしい」
だからといって、キュッリッキの両親と仲良くなって欲しいとまでは思わない。血のつながりは断てなくても、もう彼らはキュッリッキの親とは呼べないのだから。
「オレの両親と会って、家族になることを受け入れて欲しい。すぐには無理でも、受け入れる努力をしてくれればと思います」
「キューリちゃんは、大丈夫だよ」
ルーファスは優しい笑みを浮かべて頷く。
「メルヴィンに愛されていることが、最高の自信だから。最初は戸惑うかもしれないけど、ちゃんと受け入れることができる子だよ」
愛するメルヴィンの両親なら、よほど酷くない限りは大丈夫だ。
「そうですね」
「むしろ、メルヴィンの両親に自分は気に入られるか、ってトコを心配するんじゃない?」
「それは大丈夫じゃないかなあ…。アイオン族への偏見はないし、オレがいつまでも結婚しないことを心配してるから」
仕送りをしたあとは、必ず礼の手紙を送ってくる。その手紙には、いつ結婚するのか心配することを、絶対書いてくるのだ。
「あははは。じゃあ、あまり心配せず、流れに乗っていればうまくいきそうだ」
「そうだと嬉しいです」
ホッとするメルヴィンを見て、ルーファスは肩をすくめる。
「しっかしメルヴィン真面目すぎ~~。もっと気楽にすればいいのに」
「そ、そうですか? オレは普通にしてるつもりなんですが」
「やっぱ真面目」
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