メルヴィンは真面目なんです。・3

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メルヴィンは真面目なんです。・3

 夕食の時間になり、皆ゾロゾロと食堂へ集まる。  ヴィーンゴールヴ邸の主となったメルヴィンは、かつてベルトルドが座っていた英雄席が所定の席となっていた。  30人ほどが卓に付けるほどの長いテーブルを見渡し、メルヴィンはキリッとした表情で顔を上げる。 「食事の前に、ちょっとお話があります」  食堂に集うライオン傭兵団と使用人たちは、心の中で「そらキタ!」と声を張り上げた。キュッリッキだけが不思議そうに首を傾げている。  メルヴィンは席を立つと、キュッリッキの傍らに立ち、そして片膝をついてキュッリッキを見上げた。 「リッキー」 「はい」 「今更改まってするのもなんだけど…」  照れくさそうに言って、ズボンのポケットから小さな箱を取り出す。そして蓋を開けて、中身をキュッリッキに向けた。 「オレの、花嫁になってくれませんか?」 「!!!」  キュッリッキは目をいっぱいに広げてメルヴィンを見た。これが、噂のプロポーズというものだ。  愛する男性が、結婚して欲しいと言ってくるささやかな儀式。女性からの場合もあるらしいが、プロポーズされた人は幸せなのだとマリオンから聞いていた。 「花嫁になってくれるなら、この指輪を受け取ってください。婚約の証です」  照れくさそうに、でも優しく微笑むメルヴィンの顔を食い入るように見つめたあと、キュッリッキは姿勢を正して、 「花嫁になります!」  そう言ってメルヴィンの手から、指輪の入った箱を受け取った。 「おめでとう!」 「おめでとうございます」  拍手喝采、食堂が一気に祝福ムードに盛り上がった。 「リッキー、左手を出して」  キュッリッキの手から箱を受け取り、そして指輪を左手の薬指に通した。 「わあ、ありがとう、メルヴィン!」  嬉しくてキュッリッキはメルヴィンに抱きついた。 「緊張したけど、ちゃんと言えました」  どこかホッとしたように息をつき、メルヴィンはにっこりと笑った。 「おう、シャンパンでお祝いだ」  ギャリーがセヴェリに言うと、 「すでにご用意してございます」 「さっすが」  めでたい、めでたいと皆口々に言って、 「カンパーーい!」  グラスをかかげて酒盛りが始まる。  そして料理が次々と運び込まれ、お祝いを兼ねた夕食が始まった。 「まさかここで、プロポーズするとは思わなかったな」 「食堂じゃあ、ムードとかは全然ナイもんねえ~」 「てっきりプロポーズは済ませて、その報告をするんだと思ってましたよ」  口々に言う皆に、メルヴィンは苦笑する。 「どうせ念話で覗き見されるんですから、それならもうみんなの前でしてしまおうと思ったので」  それには皆、えへへと笑って誤魔化す。 「良かったね、キューリちゃん」  食事もしないで指にはまった指輪をずっと見ているキュッリッキに、ルーファスが声をかける。 「うん!」  いつもより千倍増しの輝く笑顔が返されて、ルーファスは眩しげに目を細めた。 「アタシの大好きな青色の宝石が付いてるの」  幸せのオーラが全開だ。 「リッキーが気にいると思って選びました」 「えへへ、嬉しいの~」 「お嬢様、指輪は逃げませんから、お食事をなさってください」  このままだと死ぬまで指輪に見蕩れていそうな雰囲気なので、給仕のために食堂にいる使用人たちが慌てた。  もとから食が細いキュッリッキだが、無理にでも食べさせないと全く何も口にしないことがあるのだ。体調を気遣う使用人たちに気づき、 「リッキー」 「ふにゅ」 「食事をすませてしまいましょう」 「はーい」  メルヴィンに緩く窘められ、キュッリッキは首を縮こませたあと、ようやくフォークを握った。  夕食のあとお風呂に入ったキュッリッキは、湯船に浸かりながら指輪に見蕩れ、のぼせるのを心配したアリサに風呂場から追い出された。そして着替えてドレッサーの前に座らされる。 「も~お嬢様、茹でダコになってしまいますよ」 「だって、指輪嬉しいんだもん」 「ホントに良かったですね、プロポーズと素敵な指輪」 「うん!」  メルヴィンと結婚することは決まっている。お互い結婚するものだと思っているし、それを違えることなど有り得ない。  しかしどこか曖昧な口約束のような状態だったのも事実なので、ライオン傭兵団や使用人たちはひと安心した。  唯一キュッリッキだけは、プロポーズがあろうとなかろうと、こだわってはなさそうだったが。 「お支度終わりましたよ。あまり夜ふかしなさらず、おやすみくださいませね」 「ありがとう、アリサ」 「おやすみなさいませ」 「おやすみなさーい」  アリサが部屋を辞すると、キュッリッキはくるくると舞踊りながら、ベッドにポスっと飛び乗った。そしてコロリと横になると、左手を掲げて指輪に見入った。 「青くてキラキラして綺麗だね~」  ちょこちょこ手の角度を変え、その度にチラチラ光る宝石を見て、キュッリッキはにんまりと顔を歪める。  暫くすると寝支度を済ませたメルヴィンが部屋に入ってきた。 「メルヴィンっ」  ベッドに座ったメルヴィンに、キュッリッキは抱きつく。 「指輪、キラキラして綺麗なの」 「とても気に入ってくれたようですね」  飽きずにまだ見ているのかと、メルヴィンは内心苦笑する。 「メルヴィンのお嫁さんになるって、約束の証なんだよね」 「ええ。もっと早くに渡せたら良かったんですが、遅くなってしまってゴメンネ」 「そんなこと気にしてないよ。指輪なくっても、メルヴィンのお嫁さんになることにかわりはないもん」  メルヴィンに愛されていることが、最高の自信だとルーファスは言っていた。キュッリッキの言葉から、それがよく判る。  メルヴィンはキュッリッキを膝の上に抱き上げると、左手を取り指輪に口づけた。 「プロポーズは一つのケジメだったから、きちんとすることができて良かったです。リッキーはオレだけのものだと、これが証明してくれます」 「うん」  キュッリッキは幸せいっぱいに微笑むと、メルヴィンの頬にキスをした。 「ココにもしてください」  キュッリッキの左手の人差し指を自分の唇に押し当て、メルヴィンはねだるようにキュッリッキを見つめた。  相変わらず自分から唇へのキスは苦手にしているようで、恥ずかしそうに俯くと、何度も上目遣いでメルヴィンを見る。 「アタシからしないと、ダメ?」 「ダメ」  もじもじしていたキュッリッキは、やがて真っ赤な顔を近づけて「えいっ」と小さく呟いて唇を押し付けた。 「何故唇へのキスは、そんなに勇気を振り絞っているんですか??」  もう数え切れないほど、唇でのキスを重ねている。 「だ、だって……、恥ずかしいんだもん…」  身体がカッと熱くなってくるのを手に感じて、メルヴィンは思わず吹き出してしまった。 「わ、笑っちゃダメなの!!」  確かに恋人となってまだ数ヶ月しか経っていないが、巨大な敵を退けて結ばれ、セックスもした間柄だ。それなのに自分から唇へキスすることは、それらをも凌駕するほどの勇気を必要とする行為らしい。 「ホント、リッキーは可愛くって困ります」  ギュッと強くハグをして、キュッリッキをベッドに横たえる。 「あんまりにも可愛いから、今夜も食べちゃいます」
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