メルヴィンの故郷へ

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メルヴィンの故郷へ

「忘れ物はないか?」 「うん。アリサが詰めてくれたから大丈夫だと思う」  ギャリーはカバンの中身を覗き込み、忘れ物はしていないかチェックしている。 「お土産は?」  タルコットも同じように覗き込む。 「メルヴィンのカバンに入ってるよ」  キュッリッキはメルヴィンのカバンを指さした。 「ハンカチとちり紙は、服のポケットに入れておくと安心ですよ」 「バナナは持った~?」  カーティスとハーマンの言葉に、キュッリッキはハッとなる。 「バナナはいりませんよ、リッキー…」  またみんなに遊ばれているキュッリッキに、メルヴィンはヤレヤレと頭を振る。  今日はついに、メルヴィンの実家へ行く日だ。 「実家までは遠いのか?」  つまらなさそうにしていたザカリーが問うと、 「割とすぐです。エグザイル・システムからオレの実家まで、徒歩10分くらいですから」 「うへ…、便利なところに住んでたんだなあ」 「さほど広い街ではありませんしね」 「オレらんとこは、こっからだと汽車だし、結構歩くんだよな。馬車捕まんねーと」 「そうそう。もうちょっと駅馬車の数増やしてほしいよねえ」  ギャリー、ルーファス、ザカリーの3人は同郷で幼馴染だ。 「さてリッキー、行きましょうか」 「はーい」 「では、一週間ほど留守にしますね」 「キューリちゃんガンバッテ~」 「いってらー」 「いってらっしゃーい」  みんなに見送られ、キュッリッキとメルヴィンは出発した。  メルヴィンの実家までは、エグザイル・システムで飛んで、徒歩10分で着くという。殆ど近場に出かけるくらいのお手軽さだ。  エグザイル・システムの順番待ちをしながら、キュッリッキはそわそわと落ち着かない。 「今日は目が覚めてから、ドキドキが止まんないよう」  キュッリッキは両手をギュッと握り締め、額に冷や汗をかいていた。 「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。もっと気楽にして」 「だって、メルヴィンのおとうさんとおかあさんに会うんだよ、緊張するもん」  キュッリッキの様子を見ながら、実際はそういうものかな、とメルヴィンは思う。  自分は両親と普通に家族関係でいるからいいが、キュッリッキは両親と絶縁している。戸籍に入れられていないし、捨てられている。  もしキュッリッキが家族と円満に家族関係をもっていれば、メルヴィンはキュッリッキの両親に「娘さんをください」と、頭を下げることになっていたのだ。  そんなことになっていたら、やはり自分もこんなふうに緊張に塗り固まって、生きた心地がしないのではないだろうか。 「今日明日辺りは何やら賑わいそうですが、以降は街を案内します。それを楽しみに頑張ってください」 「う、うん」 「次の方どうぞ」  エグザイル・システムの壇上前で整理をしている係員から声がかかり、キュッリッキとメルヴィンは壇上へとのぼる。 「さあ、行きましょう」  メルヴィンはアッペルバリ交易都市の首都、ムルトネンのボタンを押した。  ワイ・メア大陸の西の方にあるフロックス群島に、商人たちが築いた国、アッペルバリ交易都市がある。  国としての規模は小さいが、貿易で成り立っている国で、特に海路での貿易が盛んである。島の一つと大陸は巨大な橋で繋がっていて、陸路での交易も行われていた。  国は有力な商人たちによる評議会が治めていて、体裁は自由都市と変わりがない。しかし、エグザイル・システムを有しているので、アッペルバリ交易都市は『国』として扱われているのだった。 「久しぶりに帰ってきたなあ…。んー、15年ぶりかな?」  エグザイル・システムの建物を出ながら、メルヴィンは懐かしそうに周囲を眺める。 「ついに、きちゃったよ…」  カバンを胸に押し当てるように抱きしめ、キュッリッキはおっかなびっくり足を進めている。 「さあ行きましょう、リッキー」  メルヴィンが差し出した左手をキュッリッキは握って、緊張に緊張した顔を上げた。  アッペルバリ交易都市の首都をムルトネンと言う。元々このムルトネンから国は興り、当初はムルトネン交易都市、と呼ばれていた。しかし国土が広がり、国力をつけてくると、改めてアッペルバリ交易都市と名を変え、ムルトネンは首都名となった。 「全然変わらないなあ。新しくできた問屋や商店はあるけど、街の様子は15年前とあまり変わってないです」  街中だと言うのに倉庫があちこちに建っていて、問屋や商店がとにかく多い。至るところには露店が軒を連ね、商人たちが交渉を盛んに行っている。  ムルトネンは海辺の街でもあるので、船から荷揚げされた荷物を運ぶ馬車の往来も盛んだ。 「なんだか忙しそうな街だね」 「ええ、夕方まではドコも大忙しですよ、毎日。天候が悪かろうと関係なく」 「うわあ…」  活気がありすぎである。 「武器持った人達がいっぱい歩いてるけど、アレが用心棒?」 「そうです。荷物や商隊の護衛などをしています。この国で傭兵は、あまり見かけないと思いますよ」 「縄張りとかの結束が強そうだね…」  用心棒という独自のシステムがあるのなら、世界中に居る傭兵たちの出番はなさそうである。そしてこの国には傭兵ギルドがない。ギルドが進出していないということは、傭兵の需要がほぼナイということだ。  この国で傭兵が仕事をしているところを見ることがあるとすれば、他国で雇われて送り届けてきた、というくらいだろう。  メルヴィンからこの街の話などを色々聞きながら、キュッリッキはついに到着した。 「着きましたよ。ここが、オレの実家です」
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