キュッリッキの決断-後編-

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キュッリッキの決断-後編-

 翌日キュッリッキはカーティスの部屋を訪れ、傭兵を辞めることを告げた。 「実は、辞めると思っていました」  驚いて目を見開き、カーティスはとても残念そうに言った。 「あなたの重い過去の話を聞いていましたし、ベルトルド卿たちが死んで、どこか疲れた様子だったので」  伊達にリーダーを務めてはいない。期間が短いとは言え、キュッリッキは大事な仲間だ。心の変化も表情からある程度は察していた。 「ベルトルドさんたちのおかげで、傭兵以外の選択も出来るようになったから。――あ、でもね、アタシの力が必要な時は、遠慮なく言ってね、お手伝いするから」 「ええ、そのときは是非お願いします」  スモーキングルームに集められた皆は、カーティスからキュッリッキが傭兵と、ライオン傭兵団を辞めることが告げられた。  いつもなら茶化して混ぜ返す面々が、グッと黙り込んでしまっていた。  見つめてくる仲間たちの目を順番に見ながら、キュッリッキはか細い笑みを美しい顔に浮かべる。 「今はね、ちょっと疲れちゃったからのんびりしたいの。それで、新しい何かを見つけてみたいから、だから、傭兵は卒業しちゃうの」  傭兵しながらでも見つけられるだろ、とは誰も言わなかった。  皆自らが望んで傭兵になった。しかしキュッリッキだけは、やむを得ず傭兵をしてきた。だから、キュッリッキがどんな思いで決断を下したのかを思えば、それを尊重すべきだろう。 「来年は、メルヴィンのお嫁さんだもんね」  そう言ってルーファスがにっこり笑うと、キュッリッキは頬を染めてはにかんだ。 「ウチを辞めても、キューリさんはずっと我々の家族です」 「だな、宇宙行ったりファンタジーな体験したり、今更赤の他人になれねーしよ」 「んだんだ」  形式的には退団する。でも、仲間(かぞく)としての繋がりまでは断ち切れない。  皆の言葉に、キュッリッキの顔に花開くような幸せな笑みが広がっていった。  キュッリッキとメルヴィンがスモーキングルームを出て行くと、残された面々は思い思いの表情を浮かべていた。 「あやふやな状態にしないできっちりしたのはいいんだけど、やっぱ寂しいよねえ」  両手を頭の後ろで組んで、ルーファスが溜め息とともに吐き出す。 「今度はオッサンたちの過保護抜きで、一緒に仕事出来ると思っていたんだケド」 「結局ボクは、キューリのチートサポートを一度も受けることができなかったってことか……。ずるい、メルヴィンとガエル」  妖艶な顔をしかめて、タルコットが悔しそうに拳を握った。これにガエルは苦笑するに留める。 「あ」と小さく声をあげると、ルーファスは寝転がっていたソファから勢いよく身体を起こした。 「そうそう、今日リュリュさんから秘密兵器もらってきてたの忘れてたわ。誰か2人を呼び戻してきてー」 「なんです?」 「へへ、これこれ」  ルーファスは上着の内ポケットから、一つの手帳を取り出した。 「これ、ベルトルド様のメモ帳らしいんだけど、中にオモシロイこと書いてあってサ」  手帳を開いてページをめくると、ルーファスは一同の顔をくるりと見回して、いたずらっぽい笑みを浮かべた。 「キューリちゃんがこれ読んだら、きっとスグ立ち直って元気になると思うんだ。リュリュさんの太鼓判付き」  我が、美しく愛おしい乙女  金糸のように煌く長い髪の毛、白桃のような肌、壊れそうなほど脆く儚げで繊細な肢体  純真さで光が零れるほどの愛くるしい顔  どこをとっても、そのへんのメス豚共とは違う、神に愛されし清純な乙女よ  ああ、抱きしめる度に鼻腔をくすぐる花の蜜の如き甘やかな香り  俺の魂も心も掴んで離さない鎖を持つ至福の笑顔  メルヴィンなどというクソ野郎に愛を振りまき、俺の心を弄ぶかの如き小悪魔な所業  今すぐベッドに押し倒し、俺を見つめながら甘え求めすすり泣くほど、俺に媚びるように仕向けたい  揉んで揉んで揉み尽くして、ようやくパンケーキほど膨らむペッタンコなちっぱいを、舐めに舐めてしゃぶりつくしてイかせたい  愛の園を蹂躙されて息も絶え絶えになりながら、俺を求めてやまずに涙を流しながら俺の名を何度も呼ばせたい  俺の逞しい暴れん棒の甘美な抽挿運動に、頭が真っ白になるまで何度も何度もエクスタシーに狂い踊らせてみたい  愛するリッキー、君のことを思うだけで、俺の股間はバーニングしてしまう!  俺のことを想い、俺に愛されているトコを思い、アソコを濡れ濡れにさせてベッドの上で自分を慰めているリッキー  それを想像すると、俺の股間は今にもはち切れそうだ!  愛しているぞ、愛しているぞリッキー!  早く一発やりたい!!  ぱた、とメモ帳を閉じて、キュッリッキは肩でため息をついた。 「詩を美しく書こうとして失敗してる、みたいな…」 「日頃から何を思って生きていたか、滲み出るような心情だ」  シビルとタルコットは、ゲッソリと呟いた。ベルトルドのドヤ顔が脳裏に鮮明に浮かぶ。 「オレへの嫉妬が露骨に書いてありましたね」 「なにげに、キューリちゃんのおっぱいがペッタンコって、やっぱ思ってたんだね」 「最後の一言に、魂の叫びが…」  皆が口々に感想を罵り合っている中、キュッリッキは俯いて床を睨みつけていた。  ベルトルド達が鬼籍に入ってからのこの一ヶ月、心は悲しみに満ち溢れている。しかし、心のどこかのネジが吹っ飛んだ。 (ベルトルドさん……)  ふいにキュッリッキは手帳を大きく振りかぶると、勢いよく床に叩きつけた。 「ベルトルドさんのスケベえええええええええええええっ!!」  小さな足で力いっぱい手帳を踏みつけまくりだした。 「スケベ! 変態! エロオヤジ! バカ! アホ! エッチ!!」  ドス、ドス、ドスっと手帳は踏まれる。  ベルトルドは日頃、口に出せないコトを、メモ帳に書いて鬱憤を晴らす癖があったらしい。こうしたメモ帳は何冊もあり、リュリュが全て保管しているという。  世に出れば、スキャンダラスなゴシップ記事に事欠かなさそうなこともいっぱい書いてあるそうだ。  キュッリッキが憤慨している後ろ姿を見つめ、ルーファスはニコニコと笑った。 「ね、キューリちゃん元気出たでしょ」  かくしてキュッリッキはこの瞬間から、メソメソすることもなく普段の元気を取り戻していた。
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