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ハーツイーズ大結婚式物語・2
「そんなのダメだよハドリー!!」
両手をバンッとテーブルに叩きつけ、キュッリッキは身を乗り出す。
「ダメって言われても、明日サクッと済ませてこようかと、なあ」
「うん」
「だって、結婚式なんだよ、一生に一度――たぶん――の思い出だよ!!」
「まあ待て、話には続きがある、つか”たぶん”とか言うな…」
「にゅ」
「結婚したあと、傭兵を休業してオレの故郷に引っ越して、家業を継ぐことになってるんだ」
「家業?」
「うん。オレの実家は町で宿屋をやっててな、親父達が身体を悪くして、手伝って欲しいと言われてるんだ」
「ふにゅう…」
「リッキーも無事、信頼出来る人に託せたし、オレ達傭兵やってても、結局掛け持ちするかアルバイト増やすかで、経済的にも安定しない。イイ機会だから、家業を継ごうと思ってさ」
「家業の他にも、町内の自警団も手伝って欲しいっていうから、あたし達スキル〈才能〉的にもちょうどイイじゃない。なんだかんだ言っても、やっぱ安定は欲しいからね」
「で、でも、それと結婚式を簡略化しちゃうのは」
「まあ、本音を言うと、ファニーに立派なウェディングドレスをちゃんと着せてやりたいし、それなりにパーティーもしたいんだが、貯金は今後にとっておきたくってなあ」
「お金の使いどころがね~。贅沢できる身分じゃないし、あとで余裕が出来たら結婚式挙げ直せばいいもんね」
「そうだな」
ライオン傭兵団へ来る前までは、キュッリッキもギリギリの生活をしていたから、我慢するところは我慢していた。
しかし、親友たちの門出を節約で済ませたくない。
「よおーーーし、2人の結婚式は、アタシが主催するんだから!」
両手の拳をグッと握って、奮然と立ち上がる。
「経費はアタシがもつし、2人に盛大で豪華絢爛の結婚披露パーティーしちゃうんだから!!」
「おっイイね、オレものるのる」
「アタシもやるわよぉ~」
「早速どんなプランにするか練ろうぜ」
「美人コンテストの時みたいに、ビーチ貸切とかにしましょうかねえ」
ライオン傭兵団も話に食いつくと、早速円を囲んで相談に入る。
「え、あの」
「うへえ…」
キュッリッキもみんなの輪に入っていて、ハドリーとファニーはメルヴィンと共に取り残されていた。
「これは一体…?」
引きつるハドリーに、メルヴィンは可笑しそうに笑う。
「最近やることなくて、みんな退屈しているんです。リッキーも元気になったし、何かお祭り騒ぎに飢えてますから、観念して祝ってもらってください」
「マジっすか」
ハドリーとファニーを外まで見送り、メルヴィンはスモーキングルームへ戻ると、皆はまだ真剣に話し合いを続けていた。
そして夕食の席でも意見が飛び交い、就寝前ギリギリまで話し合いは続いて解散した。
キュッリッキの親友で、イソラの町ではザカリーを助けてくれ、温泉旅行へも一緒に行った。知らぬ間柄ではないから、自然とライオン傭兵団も2人のために何かしてやりたいと心が躍っている。
「ハーツイーズ支部に頼んで、暇をしている傭兵たちを誘って、盛り上げてもらうのもいいかもしれませんねえ」
ベッドに入りながら独り言ちていると、
「ねえカーティス、その結婚式に私たちも便乗しましょうよ」
屋敷に来てからカーティスのベッドで一緒に寝ているマーゴットが、やけに真剣な顔で言う。
「便乗しましょうよ、って、我々の式はアジトが再建できてから、ということに決まったじゃないですか」
「そしたら来年になっちゃうし、キューリの結婚式とかぶるかもしれない」
「まあ、かぶってもいいじゃないですか」
「イヤに決まってるでしょ!」
今や史上最強のセレブとなったキュッリッキは、きっと目もくらむほどの豪奢なウェディングドレスを着るに決まっている。
万が一共に式を執り行うとなれば、ウェディングドレスで差をつけられるだろうし、客たちはみんなキュッリッキをチヤホヤするだろう。ベルトルドとアルカネットがいなくなっても、まだリュリュがいる。あのオカマも何かとキュッリッキを可愛がるのだ。
そして美人コンテストでは、散々無礼で厚かましい態度をとってきたファニーよりも、最高のウェディングドレスで差を付け見下してやりたい。
マーゴットの実家は資産家であり、ファニーに比べれば遥かに裕福で上流階級だ。
「私たちの式も一緒にやるよう、言っといてね」
魔法スキル〈才能〉では透視は出来ないが、マーゴットがなにを考えて言っているかの想像はつく。
(なんでこんなの好きになったんでしょうね、私は…)
さっさと寝てしまったマーゴットを見つめ、カーティスは出会った頃を思い出す。
ライオン傭兵団をたち上げる時、魔法スキル〈才能〉訓練所へ傭兵になりそうな魔法使いを見つけに行った。
そこで出会ったマーゴットは、上等な服を着ていて、如何にもどこぞのお嬢様ぜんとした態度でいた。しかし立派な身なりと相反する下手くそな魔法の扱いに、つい口が出てしまったのが運の尽き。
(あの時声をかけて教えたりしていたせいで、なし崩しにズルズルと関係が…)
カーティスはナルシスト半分、選民意識半分の性格のせいか、男友達は多くいても女性にモテにくいという悲しい点がある。
とくに軍を辞めたばかりで、傭兵団起ち上げ前で、よほどの醜女ではない限り、女ならもう誰でもイイという気分でいた。
結婚するのが当たり前、な現状、適当なところで手を打とう、そう思ってマーゴットとの結婚を決めたのだが。
このままいくと、キュッリッキが子供を作る前に、自分たちが早く子供を作るとか言い出しそうで怖い。今はあまりセックスに励みたい心境ではないのだ。
キュッリッキやメルヴィンはともかく、カーティスとしてはまずアジトが無事再建されてから、私生活の充実をはかりたい。現在は屋敷に間借りしている身である。
そうは思っても、言いだしたらテコでも意見を曲げないマーゴットなので、カーティスは恨みがましい視線を隣に注ぎまくって目を閉じた。
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