降水確率100%

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降水確率100%

 来た。  作戦決行の日。それは今夜だ。  少年Aの顔は小学五年生という年齢に似つかわしくない、どこかイってしまっているようないびつな歓喜に表情筋が引きつりそうになっていた。  「明日(あす)の降水確率は100%です。不急、不要な外出は避けましょう!」  何度もしつこく警告し続けるテレビ。余程のことなのだろう。だけど“死んだ魚”たちにとって「降水確率100%」は生き返る最後のチャンスだと思った。  だって嘘つきな大人が「100%」だと言いきっている。これはとても珍しいことだ。大人はいつも逃げ道をつくっている。俺なんかはネグレクトだからまだいいが、少年Bは親父からの暴力に苦しんでいる。母親は親父が怖くて何もできないらしい。それどころか、親父の逆鱗にふれるのを恐れて少年Bに「お父さんはアンタのためを思ってやっているんだから。変なこと、周りに言っちゃだめよ」などと言っているらしい。少年Bが「変なことって?」と聞き返すと目を泳がせながら「だから、先生にお父さんから殴られていると相談するとか。あぁ、そうだ。体も見られないよう注意してね。友達にもよ。今はどこから情報漏れるかわかったもんじゃないから」と答えたそうだ。  それでも少年Bの友達が異変に気づき、担任に相談してくれたそうだ。けれど担任は若い女性で少年Bの体の痣を見せられると「で、でもこれ、お父さんがやったという証拠ないし。とりあえずそのうち学校とB君のご両親とで話し合いの場を設けましょう」と、母親と同じように目を泳がせ、Bとは目を合わせることはなかったという。 「とりあえず」そんな言葉を使われてしまう。  そして「そのうち」は未だ来ない。
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