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嫌だ。嫌だ嫌だそんなの、気持ち悪い。
まさか早坂は、父のつがいになることを企んでいたりはしないだろうか。いや、それならとっととつがいになっているか。十年以上、傍にいるんだから。そんなに長い間一緒にいたら流石に、『運命』かどうか分かるだろう。相手がつがいかどうかは、本能的に分かるものらしいから。
じゃあ逆に父は……父には今までそういう相手は現れなかったんだろうか。まあ別に、オメガと違ってアルファは、つがいなんていなくても不自由はしない。つがいとなったオメガとの行為は格別らしいけど、そんな肉欲のためだけにひとりの人間の一生を背負わなきゃならないなんて、割に合わない。オメガの間では、つがいを見つけたオメガは羨望の対象らしいけど、アルファの間では、つがいのことなんて話題にすら上らない。
一度早坂に、何でうちで働くことになったのか訊いたことがある。早坂は「旦那さまがとても理解のある方でしたから」と何故か少し、誇らしそうに言った。その『理解』に含まれているものを想像すると、ぞっとした。
「手っ取り早く性欲解消できて最高の職場?」
煽るように言ってやったが、早坂は表情ひとつ変えず、こともあろうか、「ええ、そうですね」と言った。言いやがった。浮気相手の女が正妻に糾弾されて、狼狽えるどころか逆に、あのひとに本当に愛されているのは私だと胸を張るみたいだった。
「薬では抑えきれないこともあって……。そんなときはやっぱり……どうしても、アルファの方を頼らざるを得ませんから」
「は……あんたさあ、自分が何言ってんのか分かってる? しかも……しかもよく俺に向かってそんなことが言えるよな。『あんたの親父とやりまくってます』って、息子に対して堂々と言う? 普通」
「不快な思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。でも決して、坊ちゃんが想像されているような、愛ある行為じゃありませんので」
尚のこと悪いわ。……いやいや、愛し合ってます、運命のつがいです、一生一緒にいたいです、ってのぼせ上がられても困るけど。ああ混乱する。どんな言葉を早坂から引き出したかったのか、どんな態度を取らせたかったのか、分からなくなってきた。
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