鷹取光輝01

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「いつもよりホームルームが短かったんですか?」 「……てめえには関係ないだろ。とっとと車、出せよ」  早坂がドアを閉めようとするより先に、内側から閉めてやる。「ほら早くしろっつってんだよ! 皆に見られちまうだろーが!」  運転席の背もたれをガンッと蹴る。靴の泥がシートについてしまった。でもきっと次に乗るときには、そんなことなかったみたいにきれいになっているんだろう。忌ま忌ましい。  良家の子女が集う金持ち校とはいえ、毎日送迎車が来る、という奴は稀だ。皇族とか、親が大臣とか、そういった奴らは別格だけど、たかだか民間企業(とはいっても鷹取グループは明治時代から続く旧財閥系の巨大企業グループだけど……)の経営者の息子程度じゃ『身の丈』に合っていないことは自覚している。だから校門の前ではなく、どうしても迎えに来たいなら離れた場所にしろと言いつけた。そうしたら律儀に守りやがって。いや、確かに守らなければクビだと脅したけれど、守られたら守られたで、ムカつくのは何故なんだ。  父は末っ子だから、光輝がトップに立って会社を継ぐ、ということはありえない。でもほぼ父の会社に入ることは確定だろうし、それなりのポジションで貢献してほしいという期待は感じる。直接言われたことはないけれど。  父は海外を飛び回っていて、家でほとんど顔を合わせたことがない。一学期に一回、会えればいい方。  その父がいない間、身の回りの世話をするために雇われているのが、早坂。歳は父と同じ、三十五。普通なら社会に出てバリバリ働いて、部下も従えて主戦力となっているような年齢だろうに、こんな、息子みたいなガキの運転手兼雑用しかできないなんて。やっぱりオメガってのは可哀想なイキモノ……いや、オメガの中では、恵まれてる方なのか、こいつは。一応給料もちゃんと出て、衣食住に困ることなく……身体を売らずに済んでいる、という点においては。  いや……オメガなんてどうせ真性の淫乱なんだから、こんな『苦手なこと』なんてやらずに、『得意なこと』をやればいいんだ。誰彼かまわず発情できるんだから。
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