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鷹取光輝01
恵まれた境遇。
胸糞悪い言葉だ。
恵まれた境遇、と聞いて皆が思い描くのは大抵、カネがあるとか、家がデカいとか、コネがあるとか。そういう条件を満たしてしまうと途端に、恵まれたひと、のレッテルを貼られる。
確かに光輝(こうき)の父親は鷹取商事の専務(ちなみに祖父が鷹取ホールディングスの社長)で、家の部屋数は訊かれてもすぐに答えられないし、お手伝いさんがいるし、学校は私学のいわゆる名門校だし、貰っている小遣いもきっと、同年代の奴と比べて桁が違う。でも、この生活でよかった、と……恵まれている、と感じたことは一度も、ない。明日食べるものにも困っているとか、いじめられているとか、そういうひとたちを恵まれていない、とも、可哀想、とも思わな……
いや、訂正。
やっぱりオメガの奴は、ちょっとだけ、可哀想……だと、思う。
「坊ちゃん」
校門を出てすぐのところにはいなかったので、今日は自由だと安心していたら、角を曲がったところに見慣れた車と、そして……早坂。聞こえるように舌打ちする。けれど早坂は表情を変えない。
「今日は早かったんですね」
白い手袋を嵌めた手が、車のドアをあける。
早坂が手を出すより先に、ボストンバッグを後部座席に放り投げる。さわられたら菌がうつる……なんて低レベルないじめをするガキじゃないけど、でも何となく、こいつには鞄ですらさわられたくなかった。
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