鷹取晃人01

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鷹取晃人01

 ファミコン、ミニ四駆、少年漫画、凍らせたペットボトル……  そんなものが、あの頃の自分を作っていた。  親の目を盗んでいかにゲームする時間を捻出するか、塾をさぼる口実はないか、漫画雑誌を友だちよりどれだけ早く手に入れるか、ランドセルの中身をどうやったら少しでも軽くできるか……  そんなことばかりを、考えていた。  養子、なんて言葉は、たぶん、それまで聞いたことがなかった。小学六年の冬まで。  ようし? になるらしい、自分が、鷹取という家の。  それで一体何が変わるのか具体的なことは、子どもだった晃人にはまったく知らされなかった。知らされたところできっと、理解できなかっただろうけど。  実母は、要は愛人だったらしい。どういった縁で巨大企業グループの経営者とそうなったのかは知らないけれど、若い頃、それなりに高級な夜の店で働いていたらしいから、出会いがあったとしても不思議じゃない。  だけど所詮、愛人は愛人。オメガはオメガ。遊び相手にはなっても本命ではない。母もそれを弁えていたようで、中学に上がるまで、母から父の話を聞いたことは一度もなかった。父という存在そのものを、意識しないように育てられた感じすらした。けれどそれが、小学六年の夏に受けた性別検査で晃人がアルファだと判明するなり、一変した。鷹取の家には、アルファの男子がうまれなかったから。  母はしきりに、「晃人のためよ」と繰り返した。「こんなところで燻ってい るより、ずっと、晃人の将来のためになるわ」  でもそのためには、母と別れなければならなかった。
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