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二風 旅のひととき
「アスカ。白茶を飲もうか」
ぐいぐいと黒雲が近付いてくる。いや、僕らが氷刃国に近付いている証だ。
「ああ、いい。僕が淹れるから。アスカ、疲れているんだろうよ」
落穂拾いは、気分転換になった。カップ二つ分の足台に、小枝をくべて、枯れたスズの葉を差し込む。石火でスズの葉に火を舞い落とす。少しずつパチパチと小枝に回ったら、腰袋から水を入れて足台であたためる。
「白茶葉は匙二つと大盤振る舞いだ。十分休めるだろう」
僕は、アスカに対して気まずかった。スシュンと結婚できなかった腹いせにクナガイへ飛ばしてしまおうと思うだなんて。
「シフェーン。そんなに崩れた牝牛みたいな顔をしていると、お嫁に貰ってくれないぞ」
「男が王妃になってどうする。元々、僕は我が国の騎士だった。隣国の方が勢力が強いから、陽国の国王様命令に従ったまでだ」
二人で沈黙が続く中、僕はアスカの策について考えていた。果たして成功するだろうか。失敗したら、国交問題だ。いや、その陽の国もない。クナガイは劫火なまでに終わった。
「なあ、シフェーン。私の策などなかったことにして、ここから引き返してもいいのですよ」
「僕だって、男だ。故郷を守れなかったらどうにもならない」
アスカの姉さんを守れなかったのが本音だ。
「さて、発つか。火は念入りに消して……。この火が! この火が我が陽国を焦がしたのか!」
「シフェーン。危ないですよ。この焚火は風の呪文で綺麗に消すのです」
息まいた僕を止めに入れるのもアスカのみだろう。
「流石、友情執事なだけあるな」
「何です? 友情執事とは」
しまった、口にしてしまったか。
「いや、仲のいい友人ということだ」
苦笑いをするも、いつになくアスカの視線が痛い。
「悪かった。アスカは親友だよ」
「なら、よかったです」
ここはもう氷刃の国に近い。大きな声を出せないが、二人でくすりと笑い合った。この旅でやっと落ち着いたひとときだった。
◇◇◇
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