三風 城門からの案内人

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

三風 城門からの案内人

 門番が待ちかねていたように敬礼の後、重い城壁の門を開ける。 「クシシシ……。シフェーン様にアスカ様でいらっしゃる」  老獪な手つきで杖を振るい、黒く深く被ったローブがやたらと目立つ人が、城への道を案内するという。 「大丈夫か。知らない人についていったらダメだって。母さんに口を酸っぱくしていわれたんだがな」 「クシシ。では、案内なしで、この先を進むがいい」  アスカが僕の背を突っついた。 「いや、案内を頼むよ。雲から氷柱の下がるこの国で、王に早く会いたいからな」 「やはり、大王様のお妃候補であるか。クシシ」  視線で舐めるような案内人に、僕は不快な思いをした。 「候補です? シフェーン・ダイナイナ様は、かように身も心も美しくあられる」  はっとした。僕は少々顔色に表れるからな。策を講じたのが台無しになる。アスカは、優秀な僕の友情執事なのは確かだな。 「クシシシ……。城の門兵に話してこよう」  何やら噂話をしていて、門兵がどっと沸き出した。 「あーっはははは! ダイナイナ様は男王妃となるのか」  くっ。男王妃だと……! 不届き者め! 「――斬る! 陽国は騎士の魂も売るつもりはない!」  左の鞘から長剣を抜きかけると、アスカが僕を押し倒した。 「な、何をする。アスカ、離れろ」  僕の手にぬめっとしたものが流れる。血だ……。僕が痛くなければきっと、この親友のだ。 「アスカー!」  アスカが黙り込む。その体の重みを全て僕に掛けてくる。 「まさか。まさか、アスカが。しっかりしろよ。おい。僕はシフェーンだ」  僕は、剣をそっとアスカから抜き取る。 「クシシ。どうなさったか」  邪魔しないでくれ。 「アスカ……!」  僕の頬にとうとうと怒りと哀しみの涙が流れる。   ◇◇◇
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!