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三風 城門からの案内人
門番が待ちかねていたように敬礼の後、重い城壁の門を開ける。
「クシシシ……。シフェーン様にアスカ様でいらっしゃる」
老獪な手つきで杖を振るい、黒く深く被ったローブがやたらと目立つ人が、城への道を案内するという。
「大丈夫か。知らない人についていったらダメだって。母さんに口を酸っぱくしていわれたんだがな」
「クシシ。では、案内なしで、この先を進むがいい」
アスカが僕の背を突っついた。
「いや、案内を頼むよ。雲から氷柱の下がるこの国で、王に早く会いたいからな」
「やはり、大王様のお妃候補であるか。クシシ」
視線で舐めるような案内人に、僕は不快な思いをした。
「候補です? シフェーン・ダイナイナ様は、かように身も心も美しくあられる」
はっとした。僕は少々顔色に表れるからな。策を講じたのが台無しになる。アスカは、優秀な僕の友情執事なのは確かだな。
「クシシシ……。城の門兵に話してこよう」
何やら噂話をしていて、門兵がどっと沸き出した。
「あーっはははは! ダイナイナ様は男王妃となるのか」
くっ。男王妃だと……! 不届き者め!
「――斬る! 陽国は騎士の魂も売るつもりはない!」
左の鞘から長剣を抜きかけると、アスカが僕を押し倒した。
「な、何をする。アスカ、離れろ」
僕の手にぬめっとしたものが流れる。血だ……。僕が痛くなければきっと、この親友のだ。
「アスカー!」
アスカが黙り込む。その体の重みを全て僕に掛けてくる。
「まさか。まさか、アスカが。しっかりしろよ。おい。僕はシフェーンだ」
僕は、剣をそっとアスカから抜き取る。
「クシシ。どうなさったか」
邪魔しないでくれ。
「アスカ……!」
僕の頬にとうとうと怒りと哀しみの涙が流れる。
◇◇◇
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