四風 医療魔術に風が巻く

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四風 医療魔術に風が巻く

「ここが、城の医療魔術室か。憎らしく思ったこともあったが、案内をありがとう」 「クシシ。大王様にお引渡しするまで、ご一緒いたしまする」  案内人は、アスカと僕の大切な時間を邪魔する。どうやって追い払おうか。 「僕は、これから治癒魔法に集中するので、隣室にて待ってくれ」 「まかりなりませんな」  く、頑固め。  そのとき、けたたましくドアが叩かれた。 「大王様が、お見えになりました」  しまった、もう氷刃国の王と出会うことになろうとは。アスカさえ目覚めていれば。  ドアが大きく開いた。そこには、僕から見ても威厳があるとは思えない痩せ細った王がいた。ぼんやりとしている。 「そちが、シフェーン・ダイナイナ妃候補か?」 「そうだとしたら?」  お前が火を放てと指図したのか? それにしてはお利口さに欠けるな。ねめつけてやった。 「祝いの席じゃ。早う来て申せ」 「いうことは、それだけか? ここにいるアスカ・マホロバに何かないのか。そして、我が故郷クナガイへの言葉がある筈だ」  僕の鈍色の剣が血塗られたことを知らないのか? 「クシシシ。大王様、長剣は預かっております」  兵が案内人に代わり、剣を布でくるんでしまったのだったな。 「ふう……。氷刃国の王よ。アスカは僕が治癒するのを待っている。それから、ドレスを纏って祝いの席でも何でも出る。アスカが待っているのと同じ時間を王なればこそ待てないか」 「ふぐう……」  呻いたのは、アスカだった。時間はない。 「分かった。もういい。今ここで治癒魔法を使わせていただく」  僕は、左右の手を操り、風の魔法呪文を唱えた。 「はああ! さあ、我がダイナイナ家系譜より継承しシシジュの精霊よ! ここに集い、アスカ・マホロバを風巻にて治癒し給え!」  黄緑色の風が、閉まっている窓から入る。ひゅうひゅうと渦を巻き、アスカの手と腹に絡みつく。みるみる血が吸われて、傷口もなかったかのように綺麗になった。 「……よかった。アスカよ。僕の親友よ」 「何と。妃候補に男がおったか?」  アスカがよくなってほっとするも束の間、王には、がくっときたね。 「僕も男だが」 「何と。我の側近が、よき妃を案内するというので待っておったが」  うん? 氷刃国の王も知らなかったのか。 「どういうことか。案内人よ」  一つ、ふんぞり返って案内人に王が問う。僕も知りたいぐらいだ。 「どういうことかと訊いておる」  ――僕は、策を思い出した。打合せでは、王と初の対面のとき、アスカに任務があるのだ。  ヒュッ。  僕の後ろから、アスカが懐の苦無を投げる。僕は、さっと避けて王に当たる道を作る。 「ぐ……」  アスカと僕の策は成功したのだろうか? 苦無の行く手を確かめる。 「案内人に刺さっている。だが、失敗ではないぞ。アスカ」  黒いローブごとばたりと倒れた。見ると、細い指は艶やかで真っ白だった。てっきり老人だと思っていたが、誰だろう。 「シシジュの精霊よ、風をおこせ」  僕が小さく唱えると、黒いローブははためいて、銀髪が窺えた。 「スシュン姉さん!」 「アスカの姉さん!」  僕らは言葉を失った。   ◇◇◇
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