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五風 ダイヤとハートの心模様
カツーン。コツーン。氷柱が垂れ込める城内に、僕らの足音が響く。
あれから、スシュン姉さんを素早く治癒したのだった。彼女について歩いている。
「もう、牢獄へ落ちると思いました」
アスカは、苦無の形、つまりはダイヤを手で作ってみせる。
「ああ、何故がこれからドレスルームへ落ちるらしい。僕はそんなに美しいのか。罪だな」
僕も胸の前でハートの形を作る。
「しかし、何故、スシュン姉さんが裏切っていたのでしょう?」
「そうだな。結婚を控えていた筈なのに」
聞こえるように話しているのに、アスカの姉さんは黙りこくっている。
「おーい。もう逃げてもいいのですよ」
「どうしたものか。アスカの姉さんが、僕のドレス姿を見たがっている」
アスカにマジ突っ込みを入れられた。肘鉄をくらわされて、結構痛い。僕は陽国の騎士だが、そんなに肉体派ではない。
「こちらに、特別にあつらえたものがございます」
クシシの案内人が、すっかりドレスマイスターになっている。
「おい、アスカ。気を利かせろよ」
「あ、ああ。女の人ばかりですね。失敬しました」
特別な部屋のカーテンとドアが閉まる。
――僕は、鏡の前に立たされる。次第にレディーの魔法が掛かったようだ。いや、レディーになったようです……。かな? アスカみたいに話せば。
「お美しゅうございます。王妃様」
クジャクという生き物がいるそうだ。そんな風に羽を刺繍されている。金糸と銀糸をふんだんに使用して、それはとても美しい。
「どうして、僕がアスカの姉さんに王妃様扱いされないといけないのだ」
とても哀しかった。本来ならば、プロポーズをして、クナガイで結婚式を挙げ、町中を馬で巡りたかった。素敵な花嫁を皆に紹介したかった……。
<続く>
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