五風 ダイヤとハートの心模様

1/2
前へ
/6ページ
次へ

五風 ダイヤとハートの心模様

 カツーン。コツーン。氷柱が垂れ込める城内に、僕らの足音が響く。  あれから、スシュン姉さんを素早く治癒したのだった。彼女について歩いている。 「もう、牢獄へ落ちると思いました」  アスカは、苦無の形、つまりはダイヤを手で作ってみせる。 「ああ、何故がこれからドレスルームへ落ちるらしい。僕はそんなに美しいのか。罪だな」  僕も胸の前でハートの形を作る。 「しかし、何故、スシュン姉さんが裏切っていたのでしょう?」 「そうだな。結婚を控えていた筈なのに」  聞こえるように話しているのに、アスカの姉さんは黙りこくっている。 「おーい。もう逃げてもいいのですよ」 「どうしたものか。アスカの姉さんが、僕のドレス姿を見たがっている」  アスカにマジ突っ込みを入れられた。肘鉄をくらわされて、結構痛い。僕は陽国の騎士だが、そんなに肉体派ではない。 「こちらに、特別にあつらえたものがございます」  クシシの案内人が、すっかりドレスマイスターになっている。 「おい、アスカ。気を利かせろよ」 「あ、ああ。女の人ばかりですね。失敬しました」  特別な部屋のカーテンとドアが閉まる。  ――僕は、鏡の前に立たされる。次第にレディーの魔法が掛かったようだ。いや、レディーになったようです……。かな? アスカみたいに話せば。 「お美しゅうございます。王妃様」  クジャクという生き物がいるそうだ。そんな風に羽を刺繍されている。金糸と銀糸をふんだんに使用して、それはとても美しい。 「どうして、僕がアスカの姉さんに王妃様扱いされないといけないのだ」  とても哀しかった。本来ならば、プロポーズをして、クナガイで結婚式を挙げ、町中を馬で巡りたかった。素敵な花嫁を皆に紹介したかった……。  <続く>
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加