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顔を上げて
「ずいぶん色づいて来たじゃん」
声を掛けられて橘花は庭に向かって顔をあげる。
決して広くはない庭の一角、父が橘花の産まれた記念にと植えた金柑の木が今を盛りと緑の葉を輝かせている。
勝手に人の家の庭に入り込んできたのは近所に住む幼馴染の俊。
狭い建坪の上に建てられた橘花の家は、共働きの両親が、曰く「爪に火を灯すような節約をして」手に入れた家だそうだが、正直橘花は親のその言い分を話し半分にしか聞いてはいない。
それでも南向きの日当たりのいい部屋を橘花の為に用意してくれ、形ばかりの縁側からとは言え小さな可愛らしい庭の眺めが橘花は大好きだ。
午前の日差しが暖かい縁側で、立膝で足の爪を切る橘花の隣に俊は躊躇いも無くどっかと腰を下ろす。
橘花は咄嗟にスカートの裾を膝まで持ち上げる。
小さい頃からいつも一緒で、ほんとに小さい頃は一緒にお風呂に入っていたんだと母に聞かされたことを思い出して頬が熱くなる。
「勝手に入ってこないでよね!」
口を尖らせてみるが俊は気にする風も無い。
「もう高校生なんだからさ……」
言葉にこそ出さないが橘花は口の中で呟く。
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