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顔を盗み見て
橘花の下着を残して洗濯物を干し終えた母が、洗濯かごを俊の目の届かぬ障子の蔭に置いて橘花に目配せして部屋を出ていく。
縁側に戻って反対の足の爪を切り始めた橘花の様子に振り向きもせず庭を眺めていた俊が、良く通るテノールで喋りだす。
「金柑、もうじき花咲くな」
急に何を言いだすんだろうと橘花は隣の俊に目を向ける。
まだ天頂までは登り切らない日差しが、幼馴染の横顔に陰影を描き、細い前髪がすだれのような景色を見せている。
すだれを透かした日光が幼馴染の前髪の内を照らし、まるで髪の内側にメッシュを入れたかような綺麗な姿を橘花に見せている。
「実がついたらお母さんがまた甘煮作ると思うよ」
俊の横顔から無理矢理視線を外して橘花は答える。
「でも 成長したよなホント」
明らかに金柑の木に視線を向けた俊が橘花に問いかける。
「そりゃあたしが産まれた時に植えられた木だから」
「なんだっけ品種?姫橘だっけ?」
「え?」
橘花の返事に幼馴染は顔を顰めて見せる。
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