Sadism Ⅴ

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 隣の席を見てみると、男が俯いたまま笑っている。その姿に不気味さを感じた私と恋人は、思わず顔を見合わせた。  その時、男が口を開いた。 「お嬢さんは本当の快楽というものを知らないようですね」 「は? 何言ってるの? 気持ち悪いんだけど」 「なあに、わかりますよ。あなたがたった今、セックスをするのを躊躇っているのが」 「いきなり何なんですか? やめてもらえませんか?」  私はそう言い、恋人は睨み付けるけど、男の言葉は止まらない。 「いつも感じているフリをするのも大変でしょう?」  その言葉に、ついに恋人が声を荒らげた。 「ふざけるな!! 見てもないのに!! ふざけたことばかり言ってると警察呼ぶぞ!!」  あまりの大声に、店員と他の客の視線が一気に恋人に集まる。恋人はその視線に気づき、気まずそうに俯いた。その様子に、男がまたクックックッと声を殺して笑う。 「お嬢さん、毎回感じている演技をするのも大変でしょう?」  私は敢えて男の言葉を無視した。だけど、男の言葉は間違っていない。恋人とセックスするときは、前もって蜜壺の中にジェルを仕込み、派手に声を上げて感じるフリをしている。彼とのセックスで、私は濡れたことすらない。
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