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望が死んで、俺は生きる気力をなくしていた。
食事もままならず、睡眠も取れていなかった。
すっかりやつれた俺を周りは心配し、いろいろと迷惑をかけただろう。
ある時同僚に飲みに誘われて、断ったが半ば無理やり居酒屋に連れていかれた。
そこで俺は今までしたことがないくらいハイペースで酒を飲んだ。
やけ酒というやつだ。
もう何もかもどうでもよかった。
飲んですぐはそこまで酔っていなかったので、俺は一人で帰路に着いた。
歩いて十分ほどだろうか。
いきなり目眩がしてバランスが取れなくなり、その場に倒れ込んだ。
遅れてやってきた酔いは今まで経験したことのないもので、そこからの記憶はあまりはっきりしていない。
ただその時、誰かに声をかけられた気がした。
その声はどこか懐かしくて、ぽっかりと穴の空いた心を、埋めてくれるようだった。
しろたの存在は、憔悴しきっていた俺の心の支えになってしれた。
しろたがいると、自然に笑顔になれた。
作ってくれる料理も美味しくて、夜もぐっすり眠れる。
俺の変わりように周りは驚いていただろう。実際瀬戸にも言われたわけだし。
しろたとの暮らしは幸せだった。
しろたは笑うととても可愛くて、ころころ変わる表情は癒される。
もっとしろたの側にいたいと、無意識に求めているのに気づいたのはいつだったか。
多分その辺りから、しろたの正体をなんとなく分かっていたんだ。
いや、本当は初めからなのかもしれない。
最後に交わした口づけを、俺は一生忘れないだろう。
望がなんと思おうと、俺はいつまでも望を想い続ける。
それが俺に許された、唯一の望との繋がりなのだから。
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