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丁度、重太郎が訪おうとするのと、若侍たちがぞろぞろと門から出ていこうとするのと、ほぼ同時であった。
「失礼致す。こちらの道場の門下生の方々でございましょうか?」
「はい、いかにも。何用かな?」
「拙者もいささか京流を学ぶ者にて、こちらの道場で、同流を指南していると聞き及び、稽古など拝見したいと考え、お訪ねしたのでござるが……」
「そうでござったか。ただ、稽古は今しがた終わったところ故、後日に出直してきてもらった方が……。いや、師範代方がまだ裏庭にて寛いでおられるようだし、挨拶していかれるがよろしかろう」
「それはかたじけない。お引き止めして申し訳なかった」
「では、我々はこれにて」
答えた若侍は気さくに応対してくれたが、その者をはじめ、後ろに居並んだ道場生たちも、耳が裂け出血したのであろうか、痛々しく側頭部に血の滲んだ包帯を巻いている者や、顔や腕に無数の痣がある者など、無傷の者など居ない有様で、余程激しい稽古を積んでいるものと思われた。
重太郎は若侍たちと別れると、敷地の中を裏手に回る。裏庭に辿り着く前に、声高に話し合う声が聞こえてきて、重太郎は何とはなしに歩みを止め、聞き入ってしまった。
「しかし、軍蔵の奴、上手くやりやがったよなぁ。仕官も上手くいかず、追い剥ぎやって食いつないでいたのが、丹後一国の兵法指南役千石取りだぞ! 千石取り!」
―軍蔵? 今、軍蔵と言わなかったか……。
「ぼやくなよ。俺たちだって仕官に預かったじゃねえか」
「だけどよ、俺たちはあいつの助教だってよ、助教。三百五十石だぜ。随分と差をつけられたもんじゃねえか」
「まあ、小者や中間にされなかっただけでも、ましだけどな」
「がはは、違いねえや」
男たちは大声で笑い合っている。
重太郎はそっと建物の角から中庭の様子を窺った。痩躯長身の男と大兵肥満の男の姿が見て取れた。
二人は井戸端で水をかぶりながら、汗を流しているようだ。
―あの体型……。
かなり特徴のある二人組である。
重太郎は、自らの心の蔵の鼓動が早まっていることに気付いている。全身の毛穴から血が噴き出すのではないかと思われるほどだ。だが、確認を怠ることはできない。これまでも、他人の空似や人違いなどは幾度もあった。確証を得ようと、さらに二人の会話に耳をそばだてた。
「俺たちが城の青侍どもを痛めつけている間、軍蔵の奴は藩主様に軍学の講義だってよ! 笑っちまうよな」
「おめぇ、軍蔵軍蔵って、今は沢口新左衛門様なんだぜぇ」
「がはは、似合ってねぇよぅ」
二人は笑い転げているようだ。重太郎は辺りを見回したあと、もう一度中庭を覗き込んだ。長身痩躯の男の背中に、右斜め上からざっくりと走行する傷跡が見える。
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