天橋立に、血の雨降り注ぐ秋

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 三人は急な呼び出しに応え、高知の御前に平伏してはいるが、用件の委細が分からず落ち着かない様子である。高知は単刀直入に問い質した。 「その方らに、小早川家からの仇討ち免状が出されておる。差出人は、岩見重太郎という者であるそうな。そちたちは名島城下にて岩見の父を闇討ちし、逐電致したとか……。このこと、間違いはないか?」  鳴尾と大川はついに事が露見したかと顔面蒼白である。軍蔵もその衝撃に一瞬固まったが、かねてからこのようなこともあろうかと考えてはいたため、ここは堂々と申し開きした方が心証が良かろうと素早く判断した。 「殿のご不審もっともなれど、その件については、いささか申し開きしたき儀がございまする」  高知も命の恩人でもある三人を、できれば助けてやりたい気持ちがある。 「申し開きしたき儀があれば、何なりと申してみよ」 「さればでござる。それなる岩見重太郎なる者の父・岩見重左衛門とは、兵法の解釈のうえで、いささか意見の相違がございまして、岩見の方から果し合いを望んでこられたのでございます。我らとしては、三対一の果し合いなど本意ではなかったのでございますが、無理に望まれて、そのような仕儀と相成りまして……」 「では、その岩見重太郎なる者の、逆恨みであると申すのだな?」 「そうは申しませぬ。父を討たれれば、恨みが残るのは当然のこと。また小早川家にしても、家中の諍いにて死者が出ている以上、我々を罰しようとするのも当然でございます。こうなったうえは、我ら三人揃って岩見に首差し出してもようござる。我ら三人腹を切りますので、岩見に首を渡してくだされ」  鳴尾と大川は、この男は一体何を言い出すのかと、軍蔵の一挙手一投足を蒼ざめた表情で見つめていたが、三人揃って腹を切ると言い出すに及び、気でも触れたかと言いたげな驚いた表情となっている。  だが、京極高知は至極心を打たれた様子であった。
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