天橋立に、血の雨降り注ぐ秋

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 今日も今日とて、午前中数人の善意の応援者と面会し、午後はもう居留守を使わせてもらおうと、美濃屋に断って自室の畳の上に転がっていると、何やら怒鳴り声が聞こえてくる。    ここ最近の、落ち着きようもない喧しさにげんなりして、布団に潜り込んでやり過ごそうとしていると、ぱたぱたと走り来たった美濃屋が、襖の向こうから声をかけた。     「岩見様、お疲れのところ申し訳ございませんが、どうしても岩見様に会わせろと、お引き取りくださらないお武家様が来ておられまして……」 「どうしても断れんのか?」 「通さねば、力ずくで押し通るとまで申されておりますれば……」  重太郎の苛つきも相当に込み上げてきている。 「一体誰じゃ? 無礼な奴め」 「小早川家浪人・塙団衛門様……」 旅籠にこれ以上迷惑を掛けるわけにもいかず、重太郎は塙と自室で対面した。  ―大きい……。  屋内で向かい合うと、その圧力たるや相当なものである。  ―これは軍蔵より大きいのではないか?  世評では、岩見重太郎といえば丈九尺などと、いい加減な風評を流している者も居るようだが、この男こそ、九尺は大袈裟にしても、そのくらいの誇張ならあながち間違いにもならないような気がした。
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