いいこと日記帳

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いいこと日記帳

ゴールデンウイークという長い休みが終わって、学校が始まった。 朝礼で、校長先生は 「『いいこと』をたくさん考えて、その『いいこと』を実行するようにすれば、きっといい世の中になる」 と話していた。 学校が終わってウチに帰ると、机の上にノートが置いてある。 ノートの表紙には、『いいこと日記帳』と印刷されていて、ボクの名前が書いてあった。 校長先生が、今日の朝礼で話していた『いいこと』を書くための日記帳かもしれない。 ボクはそう思って、早速ページを開いて、思いついた『いいこと』を書き始める。 学校の飼育小屋で飼っているウサギ。 エサが足りなくて困っていると、上級生が廊下で話していた。 『飼育小屋のウサギ達がエサに困らなくなって、美味しいエサがいっぱい食べられる』 ボクは、その日記帳にそう書いた。 次の日。 スーパーでゴミ扱いされている、キャベツの外側の硬い葉。 『ウサギのエサにしてください』と、毎日のように学校に届けられるようになった。 飼育小屋のウサギ達は、そのキャベツの葉を、美味しそうに食べている。 これって、ボクがあの日記帳に書いたからかな? あの日記帳に、『いいこと』を書き続ければ、校長先生が話していたように、『いい世の中』になるかもしれない。 ボクはそう思って、『いいこと』を思いつくと、日記帳に書くようになった。 不思議なことに、『いいこと日記帳』のページ数の残りが少なくなると、新しい『いいこと日記帳』が机の上に置かれている。 きっと、『いいこと』を書き続けなさいということかもしれないと思って、『いいこと日記帳』の全部のページを書き終えると、新しい『いいこと日記帳』に『いいこと』を書いていった。 数十年後。 小学生だったボクは、八十歳を過ぎたおじいちゃんになった。 『いいこと日記帳』は、毎日のように書き続けて、書いたことのほとんどが現実となり、ボクの周りは『いいこと』でいっぱいになった。 でも、今のボクは末期がんで、病院に入院。 それでも、ボクは『いいこと』を日記帳に書き続けている。 ボクは死ぬ間際に、 日記帳に 「この世の中から『悪いこと』がなくなりますように」 と書いた。 今まで書いてきた『いいこと』は具体的なことばかりで、具体的にかけば書くほど、『いいこと』は現実になった。 漠然としたことを書いても叶わないかもしれない。 それでも、ボクは日記帳にそう書いた。
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