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「今回は面白いもの見つけたいよなあ、死体とか」
一番お調子者のBが、にやにやしながら言う。
「そしたら俺らちょっとした有名人じゃね?長年迷宮入りしていた事件の重大な手がかり発見!大学生四人お手柄!!とか」
「お前そんなの欲しいの?取材とかめっちゃ来たらウゼーじゃん」
「それよりも俺はいい加減幽霊ってヤツを見てみたいわー。……なあA、お前が見つけたココの怪談ってどんなんだっけ。サイコパス野郎が人を喰うために殺しまくった村、としか覚えてないんだけど」
「超絶ざっくりだなオイ。仕方ない、記憶力が残念な誰かさんのために、俺がもう一度話してしんぜよう!」
なんだか滅茶苦茶偉そうなA。しかし、きちんと覚えていなかったのは俺なので、そこでツッコミは入れられない。
金網を抜けると、そこはどこかの崖の上だった。目の前にはずり落ちたら絶対に助からないであろう、深い深い森の海が広がっている。トンネルに入る前より明らかに木が密集している印象だ。上を見ても、青空は木の葉の合間から切れ切れにしか見ることができない。
「昔々、それこそ太平洋戦争よりも前のこと。ここの村には、一人の凡庸な男が住んでいた。男は醜い容姿をしていた上に、大病を患っていて長くは生きられない身体だった。小さな村だから、医者も診療所に一人いるだけ。都会まで出ていけば治ったかもしれない病も、此処では不治の病とさほど変わることがない。そんな男を村人達は忌避し、村の隅のボロボロの家に追いやっていたんだそうだ。……当たり前だが、ろくに治療も受けられず、働けないから大した食べ物も食べられない。男の両親は、とっくの昔に死んでしまっている。男は日に日にやせ衰えていった。そして、どうすれば生きながらえることができるのかを考え続けていたんだ……」
左にだけ、緩やかに登る道がある。その先に村があるのだろう。俺達はAの大仰な語りに耳を傾けながら、ゆっくりとその奥へと歩いていった。
暫くすると、お地蔵さんが大量に並んでいる道に出る。大量っていうのがどれくらいかというと、それはもう大量だ。道の両脇にそれはもうずらーっと。数えるのも面倒なくらいの数だった、ってことだけは言っておく。少くとも、六十とか七十とか、それ以上の数はあったと記憶している。いかにも、な雰囲気出てきたぞ、と。俺達は喜び合った。そのお地蔵さんっていうのが、今まで見たことのないような変わったものだったから余計面白かったっていうのもある。
全員赤い前掛けをしているのはそんなにおかしなことではないが。どのお地蔵さんも、よく見ると顔が違うのだ。しかもどの顔も、苦悶の表情を浮かべている。俺達がよく知るような、悟りを開いた穏やかな顔のお地蔵様ではなかったのだ。
「男は村の図書館に忍び込み、ある蔵書を見つけた。そして歓喜した。この方法を用いれば、俺は生き延びることができるやもしれぬ。そしてそれをするのであれば、まだ体力が残っている今しかあるまい。……それは、百人の人間の肉を喰らう、という呪術的儀式だった。男は生き延びたいのは勿論、自分を追い詰めた村人達に対しても憎悪を募らせていたものだから……これを機に復讐できるのは一石二鳥だと考えた。そして、実行に移したのだ」
「まじうっわーだよな。人間の肉とかキモくて絶対食いたくねーし」
笑いながらお地蔵さんの一体を覗き込むB。そこで赤い前掛けみたいなのを引っ張ったり、お地蔵さんの目玉をつんつんしたりと罰当たりなことをしてしまうのがコイツである。度胸あるよなお前、いつか呪われても知らねーぞ、と俺はやや真面目に思ったものだ。
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