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「その点は俺もBに同感だわな。でもお前あんまふざけすぎんなよ。祟りとかあるかどうかは知らんけど、さすがにお地蔵さんにイタズラすんのは感心しねーわ。……で、A。その話の後どうなったんだっけ?」
「人喰いをするにあたり、条件があってだな。ぶっちゃけ、死んだ人間の肉を喰っても意味がない。生きている人間の肉を、生きたまま喰わないといけないんだ。男は村人達の寝込みを襲って、次々と村人達の肉を食いちぎっていった。ある者は太腿の肉を削ぎ落とされて絶叫し、ある者は首の肉を剥がされて即死。女の中には豊かな胸の肉をごっそり持っていかれた者もいたらしいんだが……まあ、そんなことやってたらすぐ発覚するよな。百人も襲うなんて無理に決まってる。そもそも男は病で弱っていた身体だ。男は捕まえられて、その場で殺されたんだが」
「百人食いきれなかったことを悔やみに悔やんで、今でも亡霊になって村を彷徨ってるんだろ?でもって、訪れた奴の肉を喰おうと今か今かと涎を垂らして待ってるんだ」
「あーそうだったそうだった」
この中では比較的真面目なCは、そのあたりの話をよく覚えていたらしい。しかし、と俺は考える。幽霊っていうのは、実体があるものなんだろうか?ふわふわと漂っていたり、超常的な力で人に危害を加えるようなイメージがある。それが食い殺すともなると――なんというか急に物理攻撃っぽいというか、オバケらしくもないというか。
「幽霊が食い殺すって、どうやるんだべ」
お地蔵さんの通りを抜けると。そこには草がボーボーと生えた――集落の跡地のようなものがあった。恐らくこれが、人喰い村とやらなのだろう。
俺は既に後悔していた。といっても、来たことを後悔したのではない。なんで真昼間に来てしまったのだ、これでは怖くもなんともないではないか、という方向の後悔である。
ただ雑草が生えまくっていて、ボロボロの木造小屋が立ち並んでるだけの場所ではないか。人喰い村とか言うくらいなら、血のあとくらい残っていてもいいものを。しかも。
――Aの見た話って、肝心の最後抜けてるんだよなあ。
村が今はないのなら、村がなくなった経緯が話に含まれていてもおかしくはなさそうなのに。どうせ創作怪談にするのなら、最後に死んだ男が村人達を残酷に呪い殺していく描写くらい入れてくれてもいいものを。なんて中途半端なんだろうか。
まあ、読んだはずのAが最後の部分をすっかり見落とした可能性もなくはないのだけれど。
「なんか、今回もハズレっぽいなあ。この間の事故現場の方がまだ面白かった気がする。車の部品くらいは落ちてたし」
「家の中、ほとんど鍵かかってて入れねーっぽくね?つっまんねーなあ」
「写真撮ろうぜ。もしかしたらなんか映るかもよ」
俺ら三人がわいのわいのと話している中。村に踏み込んだ直後から、急に大人しくなった奴がいた。いつも誰よりもくだらないことで騒ぐ人物、Bである。Bは村の奥の方を向いて立ったまま、全く微動だにしない。
「……?どうしたよ、B。お前急に黙って」
また何か悪ふざけでも考えてるんじゃなかろうな。そう思ったのは皆同じだっただろう。Aが苦笑しながらBに近づいていき、その肩に手を乗せた瞬間だった。
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