(6) 二十五年後

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灯琉との電話を切った後、僕は本棚の上に乗せていたタイムカプセルを抱き寄せた。 図工の時間に作った、不格好な木箱。これでも4人で作った中では一番の出来だったので、僕のが選ばれた。 そっとフタをスライドさせて、灯琉からの唯一の手紙を取り出す。 タイムカプセルを掘り出したその日も、僕とえだっちと今ちゃんとで読んだし、 この手紙が届いた当時も、芦屋クンも含めてみんなで読んでいた。 【真守、元気? みんなも変わりないか? まぁ、まだひと月経ってねぇもんな。 東京さぁ、もっとごみごみしてるとこかと思ってたけど、意外とそうでもねぇ。 てか、ここ、東京の端っこだし。緑に囲まれてなかなかいい所よ。 こっちの奴らもなかなかいいよ。ゲームばっかしてるのがちょっと気になるけど、まっいいか。 俺さぁ。 やっぱり、せめて、そっちで小学校を卒業したかった。 俺って、卒業アルバム貰えるのかな? あー、それからさ。あの日の事。 みんなにちゃんと言わないで別れちゃったから、今書くな。 俺のわがままに付き合ってくれてありがとう。 ランドセル背負って自転車走らせた事、 色々寄り道した事、 みんなであんなに泣いた事、 俺一生忘れねぇから。 たまにそっちに帰りたいって言うと、父さんが渋い顔をするから、あ、無理なんだなって思ってる。 でもいつか、父さん関係なしに俺ひとりでそっちに行ける時が来たら… その時はよろしく。 じゃ、また手紙書くな。つうか、今度はお前の番。待ってるからな。 えだっち、今田、芦屋にもよろしく言っといて。 灯琉より P.S. 芦屋はクラスに馴染んだか?】 これを読んだ芦屋クンは大号泣、教室で読んでいたから、クラスのみんなが何事かと集まった。 「大丈夫だよ。僕は、大丈夫だから」 多分灯琉に向けた、芦屋クンの言葉。 僕ももう、あの近くには住んでいない。同じ市の少し栄えた所に住居を構えて、家庭を築いている。 灯琉が一泊した後、二人でサイクリングロード、いや今は○○ロードって言うんだっけ、走ろうか。 自転車、どこで借りよう。坂本輪業はとっくの昔に閉まってるし、他にあの近辺であるか調べてみよう。 灯琉はどんなカオをするかな? 今度は僕が、秘密の案内(シークレットガイド)をする番だ。 シークレットガイド〈完〉
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