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大きな川の流れを眺めていると、眠たくなった。対岸に並ぶ建物の窓が、陽を浴びて輝いている。流れる水の煌めきと建物の無機質な色を、落ちてくる瞼の合間から見た。やがて、肩からごろんとブルーシートへ横になり、両手を枕にして同じ景色を角度を変えて眺める。
わたしが生まれた場所とは似ても似つかないこの場所の景色は、この土地に住み始めてから自分の中にすっかり馴染んでしまった。母国から一万キロほど離れたこの国で、わたしはこれからも生きていくつもりだ。
誰かに肩を揺すられて起きる。目を開けると、もう夕暮れだった。
「ずっと、寝ていたの?モモ。風邪引くじゃない」
いたずらっぽく微笑んだジョディがわたしの前で膝を屈めていた。わたしの髪をひと撫でして、ジョディは勢いよくブルーシートを引っ張った。わたしはフライパンの上のソーセージみたいにするする斜面を転げて、土手に静止した。
目をまんまるくしたわたしと、それを見たジョディは、同時にケタケタと笑った。向こう岸には、建物の窓からの光がいくつもある。大きい窓や、覗き穴のような小さな窓。中で人が行き交う窓は遠くから見ると明滅して見える。
さっきまでわたしが眠っていた地点を見上げると、ジョディがまたブルーシートを敷いていた。おいで、と言われて、わたしは服についた草を払ってから、子供のように跳ねて土手を登った。
ジョディとわたしは三角座りをして、向こうの建物を眺めた。こうして空が紺色になっていく様子を、誰かと見つめていたことが今まであっただろうか。わたしの人生は、こんな風に世界が「些細なことだよ」と独り言ちるように変わっていくのに気づかないくらい殺伐としていたのかもしれない。
ここへ来れて良かったなあ、とジョディの傍らで思いながら、わたしは自分の故郷、日本にいた時のことや、ジョディや数字のことについてなどを思い返した。
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