第一楽章 開店への序章

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出勤したスタッフたちが横並びに並ぶ。 エプロン以外に決まった制服はないが、上は白襟が付いたシャツ、下はくるぶしまで隠れる動きやすいパンツと決められている。 殆どのスタッフが夏は白のポロシャツにジーンズかチノパン、冬は長袖の白シャツで、寒ければ防寒着を着るというスタイルだ。 白の襟は「一番クレームの少ない服装」だそうで、数年前から着用が義務付けられた。 ちなみに男性は白シャツにネクタイ、黒のパンツと決められている。 今日の早番は十三名。ほぼ全員が主婦かフリーターのパート従業員だ。 その時、外から入る時に使う鉄の扉が開く音がして、一人の女性が入って来た。 「…おはようございまーす」 その人は小さな声でそう言うと、透明の壁で仕切られた休憩スペースに向かって行く。 ここには休憩時に食事をするためのテーブルとイス、各自の荷物や上着を入れるかごが置いてあり、身支度をするためのスペースも兼ねている。 彼女がそこへ入るためには全員が並ぶこの場所を通り抜けなければならない。 「おはようございまーす」 とそこにいた全員が答える。 明らかに遅刻なのだが、誰も文句を言う人はいない。 会社的には三十分までに出勤すればいいのだが、店長からは二十五分出勤を厳守するように言い渡されている。 一分早くてもいけない。なぜなら五分分の時給が発生してしまうから。 どんなに急いでいても、きちんとエプロンを着けて身だしなみを整えてからじゃないとタイムカードを押してはいけない。 みんながそれを守るのは、そこらじゅうに付いている監視カメラのせいだ。 ほんの少しの不正も無いように、常にランダムにチェックしている人が日本のどこかにいるらしい。全国で何千もの店舗を持っているのに、そんなことが可能なのかと思うけど、時々他所の店舗で摘発があるので嘘ではないみたいだ。 けれどほぼ毎日最後に出勤してくる月村美和には、店長ですら文句を言えないのだ。 ギリギリ二十九分に月村が出勤すると、全員がほっと息を吐いた。 そのタイミングで、その日の当番である島田由里子が朝礼を始める。
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