第一楽章 開店への序章

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「朝礼を始めます。昨日の純売上、百十五万円、達成率百二十パーセント、人事売上一万千二百円、平均日販百三十万五千円…」 淡々と読み上げられる売り上げ報告に、あちらこちらからため息が出る。 何故だ。 何故こんなにも売り上げが高いのか。 ここは百円ショップだ。 百円の物を百万円売り上げるのはけっこう大変だ。単純計算で一万個を売らなきゃならない。 だが昨日は平日、それも月曜日だ。 月曜日から百十五万円売り上げていると言うことは、一万千五百個の商品が売り場から消えていると言うことになる。 その分を、埋めなければならない。 品出しの鬼とならなければならないのだ。 そして月曜日にはいつも大量の荷物が届く。 昨日も、週末の売り上げ三百数十万円の商品を補う分の荷物が届いているはずだった。 もちろん、今日も届く。毎日届く。 荷物が来れば「荷受け」の当番は荷物を受けてからの伝票処理、その他のスタッフはバックルームでの「荷振り」という、各売り場の担当ごとに荷物を振り分ける作業が始まる。 そして品出し。合間にレジ。そして荷振り。また品出し。 いや、それだけならまだいいのだ。 この合間に接客。これが問題。 売り場では、いろんな方向から常に声を掛けられる。 そして声を掛けられ、「この商品はどこか」と聞かれれば、広い店の中を「ご案内の旅」に出なければならない。 何故「旅」なのかと言うと、ご案内した先でまた声を掛けられ、それが終わるとまた声を掛けられ…それが延々と続くからだ。 ふと解放された時、それまでしていた自分の仕事が何だったか思い出せなくなり、取りあえず意味もなくバックルームに戻って一息吐くのが常なのだ。
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