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「熱いわよ!!」 荒い声の方を見れば、風呂からあがって新人職員の竹林にドライヤーを向けられている野久保さんという女性がいた。 「す、すいません!!」 竹林は咄嗟にドライヤーをおろして、謝った。野久保さんは短気な女性だから、いつも怒っている。 「野久保さん、終わった?」 ドアが開いてエプロンをしている萩尾が覗く。 「…ご飯ですよ、野久保さん」 萩尾は竹林の返事も聞かずに車椅子を押していく。野久保さんはさらに声を張り上げて 「まだ乾いてないわよ!!」 と叫んでいた。 静かになった浴室。 午前中に20人近く入れたんじゃないか。今週はお風呂当番が多い太田凌駕は濡れたシャツの裾をしぼった。ダラダラ冷たい水が流れ落ちる。 「すごい声。野久保さん、昔は歌手だったらしいよ」 バスタオルを集めて籠に放り込みながら同期の松野が言った。 「それ、本当?」 「え?」 「よく作話するじゃん、野久保さん。俺のこと、孫だって言いふらしてるもん」 松野は腹を抱えて笑う。 「野久保さん、お前のことを気に入ってるもんな。」 「勘弁してよ」 「でも歌手は本当だよ。生活歴に書いてあった。ジャズを歌っていたらしいよ」
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