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「ミカさん、スキ」
千秋はことあるごとに私にそう言った。
居酒屋でビールを乾杯して、一口飲んだあととか、夜のベッドの中でも、朝のベッドの中でも。
私はゴールデンレトリバーが懐いたようで、嬉しかった。
千秋はいつだって私のそばにいて、私を遠ざけることをひとつもしなかった。
連絡はマメだし、おはようもおやすみも欲しがった。
一週間毎に会ったときには、好きだというスマホゲームもそっちのけで、私の顔にキスをした。
千秋はいつもはっきりと気持ちを言葉にした。
好き嫌いはもちろん、退屈だとか、腹がたつとか、マイナスな感情もあけすけに伝えた。
千秋は魅力的だった。きっと、世の中の誰にとっても。
私にはそれが不安に映った。
若い子が周囲に多い時期に、年上の私に構う理由がわからなかったからだ。
色素を抜いた千秋の髪が太陽に照って、目を離したら青空に吸い込まれてしまいそうに思っていた。
千秋は週末私の家にやってきて、寒い冬のにおいをかいで、羽毛布団にくるまり、土曜日の夜には、バイトに向かう。
お酒を飲んで、一緒に寝て、起きて、テレビをながめて、洗濯物を手伝ってくれて。
たまに出かけた時には、彼に似合いそうな服などを選んで買ってあげたりもした。
千秋に会える日を追いかけて、延々とループするような毎日に、私はしだいに怯え始めた。
千秋は私のことをスキだというけれど、付き合ってもないし、彼はある日とつぜん私の目の前から消えたりするんじゃないだろうか。
このままでいいのだろうか。
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