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そんな生活を続けていると、春になった。
千秋は大学をでても、定職につかず、喫茶店のバイトを続けていた。
週末は大学生がシフトを入れたがるから、平日昼間から夜までと、日曜日の混む時間に働いているという。
「半年経つね」
千秋は私の部屋のソファに寝そべりながら、うれしそうにそう言った。
「なにが?」
「付き合ってから」
「え?」
私はすっとんきょうな声をあげて、洗濯したばかりのバスタオルを床に落とした。
「付き合ってる?」
「付き合ってないの?」
私が聞き直すと、千秋は当然のことのように口にした。
「僕は付き合ってると思ってた。だって、大人って言葉にしないっていうじゃない。告白とか、学生のうちだけだって。だから、なんか、そういうことなのかなって。……なんか、言ってて恥ずかしい」
黒目があちこちに転がる千秋の肌は、高揚していた。
「え、あー、えーっと。まあね。うん……付き合ってる、よね。これは」
そうか。なるほど。付き合っていたんだ、私たち。
ずっと知りたかったことを知れてよかった。
私は安堵のため息をついて、床に落ちたバスタオルを拾い上げた。
「でも、やっぱりミカさんの口から、聞きたいけどな。僕のことが好きだって」
「やだよ、そんなの。学生じゃないんだから」
「ちぇー」
私は千秋の期待をつまさきで弾き飛ばした。
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