君の絶望と交換

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私と千秋が一緒に住んだのは、ほんの二ヶ月足らずだった。 暑い夏の木曜日、千秋が珍しくバイト帰りに私の部屋まで来たときのことだ。 部屋が寝苦しくて、具合が悪くなってしまうので、ここで寝かせてほしいという。 冷房を付けたらいいじゃない、と言うと、お金がなくて電気が止まってしまったという。 「うちに来る?」 私が言うと、千秋は立ち仕事で疲れた顔を明るくした。 私の中のなにかが満たされた気がした。 分かっていたことだが、一緒に住んでみても、生活はすれ違った。 私は朝早く起きて会社に行く。営業職のため、残業は当たり前にあったし、突発的な飲み会も少なくなかった。 千秋は学生バイトの穴を埋めるようにシフトを入れているため、毎週のように予定が変わる。 ずっと遅番の日もあれば、朝早く行ってから昼に抜け、また夜に出る日もあった。 ただ、週末の夜は私のためにとあけているらしい。 千秋はどこかに出かけることを提案してくれるけれど、私は一週間の疲れを癒すので精一杯で、ぐうたらとビールを飲んでバラエティ番組で笑っているだけだった。 だって、べつにどこかで二人でいるのと、この部屋でふたりでいるのとは大差ないことだろう。そう思っていた。 私は千秋を部屋に招き入れて、すっかり安心していた。千秋がどこにもいかないと慢心していたのだ。 「ねえ、こないだ結婚したんだって」 私は安い発泡酒を仰ぎながら、千秋に言った。 「誰が?」 「大学の友達。早いよね」 「早くはないんじゃない?」 私はへらへら笑いながら、ソファに身体を預けた。 「えー、うそ。なんか、現実味がないよ」 「そんな、ミカさんもすぐだって」 「え? 結婚するの?」 私はヘラヘラ笑うのをやめた。 「じつは、考えていることがあるんだけど。僕、就活しようと思って」
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