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「ただ、ここで一つ問題が」
きりっと表情を引き締めるイルドにカルネは不安げに「何……?」と自分の何が悪いといわれるんだろうと不安になった。
「旅はね、出来れば私と貴女2人で行きたいの」
イルドの言葉にカルネは少し安堵した表情を浮かべた。
「でもね、私には10歳の息子がいるの」
「うん」
「その息子とね、前に約束したの」
「うん」
イルドの言葉にカルネは相槌を打つ。
真剣な表情をするから、カルネもつられて真顔になっていた。
「次の冒険は一緒にって」
「うん……ん?」
カルネは首を傾げると、「その子と、私と、イルド。3人で行くの?」と尋ねた。
「できればそうしたくない。けど……そうせざるをえないかもなのよ。いい?」
心底残念そうにイルドは言う。
「私はいいよ」
にっこり笑ってカルネが言うと、イルドはさらに残念そうな顔をした。
どうしてその表情になるかわからず「どうしたの?」とカルネは首を傾げた。
「私ね、息子だけでしょ? だから、可愛い女の子と旅するの夢でさ。でも息子が居たら……裸で一緒にイチャイチャしながら娘とお風呂、ができないでしょおおおお」
あこがれてたのにー、と嘆き抱き着いてくるイルドに、カルネは、あれこの人変態かもしれない、と人を見抜くのが得意なはずの自分の瞳が間違いを犯したのではないかと思った。
「俺がいた方がカルネも安全だろ? 俺を邪魔もの扱いしないでくれよ、母さん」
「だってぇ……え」
突如聞こえた声にイルドは勢いよく振り向いた。
いつからいだのだろうか。
そこには、頬を膨らました息子のタイタンがいた。
「タイタン、あんたいつからそこに……あ」
イルドはタイタンの背が縮んでいることに気づき、眉間に皺を寄せる。
イルドの様子にタイタンはにやりと笑み「そゆこと。約束守ってるから俺は悪くないよ」と得意気に言ってのけた。
「悪いわ!」
叫ぶと同時に、イルドは小柄な少年を渾身の力で蹴飛ばした。
それは、迷いのない本気の蹴りだった。
吹っ飛んだ少年は壁に思いっきりぶつかった――――はずだった。
ボフン
破裂音と共に少年の姿がかき消えた。
壁にはぶつかった後などなく、まるで最初から何もいなかったかのような静けさがその場を満たした。
カルネは困惑しながらイルドを見た。
間違いなく、そこにタイタンはいた。
そう、瞳が告げていたからこそ。
衝撃を受けた瞬間消えたのがわからなかった。
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