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困惑し視線を泳がせるカルネに気づくと、イルドは優しい微笑みを浮かべ「ああ、あれは分身さ」と告げた。
「ぶん……しん……?」
きょとんと首を傾げるカルネに、イルドはクスリと笑みを浮かべた。
「ああ。息子オリジナルの魔法でね。本体と全く同じ性質であいつは分身、というより分裂みたいなことが出来るのさ。そのかわり、分身を増やせば増やすほど背が縮むのと魔法力をごっそり使うから限界があるんだけどね。とはいえ、アイツは特異体質もちだからほぼずっと分身を出し続けれるってのが厄介なのよねぇ」
そこでイルドは盛大な溜息をつく。
「本気で蹴ることねぇだろ!? さすがにビビったじゃねぇか!」
声を荒げてタイタンが部屋に入ってきた。
「私を出し抜こうとした報いさ」
イルドは腕を組みフン、と鼻を鳴らした。
が、すぐにニヤッと笑うと「ま、説明する手間が省けたけどね。全部聞いたんだろ?」と言った。
「ん、聞いた。カルネと母さんを2人きりにするのは危険だから無理やりにでもついていくぞ」
タイタンの固い決意の籠った言葉にイルドはやれやれと肩を竦めた。
「可愛い女の子と2人旅ってのをしてみたかったが……約束もしていたしね。仕方ないか」
イルドの言葉にタイタンはにやりと笑い「じゃ、決定な」と嬉しそうに言った。
「よし、じゃあ明日すぐ出発するよ。カルネ、貴女を休ませてあげたいが……何分、時間がないからね。しっかりご飯食べて、寝たら、すぐ出発しよう。いいね?」
「はい」
イルドの言葉にカルネは何か言いたげな表情ではあるが、申し訳なさそうな表情で頷くだけにとどめた。
本当に、カルネは利口な子だ。
恐らく申し訳ないだの、迷惑だのと断りの言葉を言おうとしたのだろう。
だがイルドもタイタンも何を言われようと嫌でも協力するつもりなのをその瞳で見て察し。
素直に頷いたのだ。
こんなに利口であれば、両親の憎悪の理由も余計理解し、苦しんだことだろう。
「……ありがとうございます」
涙を目に溜めながら礼を述べる姿はとても4歳には見えなかった。
大人でもわからないことを察し、すべき最善の行動を彼女は心得ている。
こんなに幼いのに、優れたものを持ち合わせすぎている。
「……遠慮せず、年相応に甘えればいいさ」
愛されている時も、何かしらの優れた能力を持つよう強要されたのだろう。
しっかり学んで、親の望む力を手に入れたのに、今度は力を手に入れすぎと捨てられた少女。
親の身勝手さに怒りが燃え滾ると共に、なんと理不尽な環境にいたことかと少女のことを思うと言い知れない悲しみがこみ上げた。
絶対守る。
強く決意しながら、イルドは少し体を震わせているカルネを優しく抱きしめた。
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